【序章】 ページ2
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貴方side
微かな違和感、胸のざわつき。
その光景を視界に収め、瞬時に理解した私は突き上げられるようにして叫んでいた。
『─────愛美ッ!!』
勝手に身体が動いた、とはこの事を言うのだろう。蝶屋敷の書斎、倒れる本棚。真下には子供の頃からの大切な親友。嗚呼駄目だ、その位置は駄目だ。愛美が、死んでしまう。声で動かすにはもう遅い。抉る勢いで床を蹴り、持っていた本を放り出してその人物に迫った。
────間一髪、届いた。
ギュ、と愛美を抱きすくめる。このまま両者とも本棚の下敷きになったらそれこそ笑い者にされる。汗が吹き飛ぶような緊張感と速さの中で、私は必死に思考を巡らせた。
そのまま彼女ごと離脱しようと思った、のだが───。
愛「触らないで」
と、と。
肩を押され、身体が離れた。
愛「貴方、もう要らないのよ」
『────……愛美?』
停止した空間。
消失した音。
笑える程に緩慢とした動きの中で、
愛「次は、私が愛される番よ」
愛美の蠱惑的な声が、よく響いた。
桃色の形の良い唇が、うっそりと半月のような形を作り─────。
愛「さよなら、友情ごっこさん」
ドガッ、と。
文字通り脳天が揺れたような。そんな衝撃が頭の先から爪先まで響き渡り、私は一瞬で意識を刈り取られ。そして、気を失う刹那。
邪悪な笑みを浮かべる、愛美の姿を見た気がした。
暗転。
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作者名:リコ@万年スランプ期 | 作成日時:2022年5月15日 1時