-S- loving you. (ページ24)

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24. ページ24

4章終わりの始まり

＊＊＊

虫の鳴く声で目が覚める
情事の後だからか、全身が気怠い

静かな夜

窓から月明かりが差し込んで、
隣に眠っている彼の、紫耀の顔を淡く照らしている

夜は冷える

肌寒くて、彼の方に擦り寄ると
そんな私に気がついた紫耀が何も言わずに抱き寄せてくれた

「…眠れる？」

『…ううん』

しばらくの沈黙

「……A、明日、帰れ」

『…………え…？』

突如言われたその言葉に目の前がぐらりとした

頭を鈍器で殴られたみたいな衝撃

「…明日、お前を解放する」

温かいはずの世界が一瞬でヒビ割れて
するすると虚しくすり抜けていく

それはきっと、幸せなことなのに
やっと帰れるのに、やっと普通の生活に戻れるのに

『……う、ん…』

結局私は、道具に過ぎなかったみたい

ただ、お互いの苦しみと痛みに気がついて、
それを埋め合うように、哀れみあっただけだった

きっと紫耀は、そう思っているから解放するんだ…

「もう寝ろ…こうしてればあったかいだろ」

体温が伝わってくるのに、私の心は抉られたよう

もう、道具でも何でもいいのに

.

早朝、彼よりも早く目が覚めて
そして彼がめを覚ますまでの間、彼の横顔を見つめていた

だんだん、触れたい衝動にかられたけれど、きっと今彼が起きたら、別れの時間が早まってしまう…

そうしてしばらくして、もぞっと彼が動いたかと思うと、ゆっくりその瞳が開いた

「…もう起きてたん、」

目をこすりながらそう言う彼が、
何だか可笑しかった

「昼くらいにここ出るから」

黙って頷いた

『…朝ごはん、作りますね』

…今日で最後だから

エヌやエックスから助け出してくれた彼に、私の心の痛みをわかってくれた彼に、
1番美味しい朝ごはんを作ってあげようと思った

台所に向かうと、
彼も隣に来た

「…手伝う、」

『…ありがとうございます』

「俺何すればいい？」

『じゃあ…そこの野菜、切ってもらえますか？』

「わかった」

彼が包丁を握ると、
思わず身構えてしまった自分に気づいて笑えた

野菜を切り始めた彼だけど…

不格好に切れていく野菜…

『…紫耀さん…(笑)』

「……こういうの、あんま得意じゃないだけ…」

そう言って少し不機嫌になった彼だけど、最後の日に、こんな表情が見れて、嬉しくなった

.