-S- loving you. (ページ15)

今日:31 hit、昨日:10 hit、合計:702,115 hit

15. ページ15

3章散る花咲く花

＊＊＊

この関係に、
名前を付けるなら…何だろう

私たちは奇妙だった
異常で、形容できない関係

限りなく主従に近くて、
それでいて同志かもしれなかった

私は彼と2人になってから、監禁状態を解かれて、少しだけ自由が効く身になった

でも、彼の言うことには絶対で、正確には自由ではないけれど、彼は私に多くを求めることはなく、ただただ一緒に過ごした

.

小屋の目の前には小川が流れていて、
木々も青々と茂り、名前も知らない小さな花がたくさん咲いている

私はそれを眺めるのが好きだった

彼は1日のどこかで必ず、私をこの小川へ連れてきた

彼は岩の上に寝そべって、あの銀の刃を見つめたり、目を閉じてじっとしていたりしていた

夕方、彼はまたそこに私を連れ出した

「…A」

ふと、名前を呼ばれて顔を上げれば
横たわった彼がこちらを見ていた

憐れむような、傷ついたような瞳で私を見る…
最近彼は、こんな悲しい顔をするようになった

「…どうかしたん」

『…え？』

「…いや…何か言いたいことあったらちゃんと言えよ」

無言で頷いた

ここにきて2週間くらい
彼は3日に1回ほど食料や必要なものを買出しへ行く
質素だけど、料理は私が作る

こう考えてみれば、本当に、変な関係だと思う
でもこれが私の日常になっていた

そして、
交わす言葉は少しだけど、たびたび会話をするようになった

彼も、私のことを名前で呼ぶようになったし、
彼について、わかったことも少しある

笑うことは無いに等しいけれど
あの冷たい眼を感じなくなって、

喋り方も以前より柔らかくなった気がする

私が笑うとき、
彼の瞳は悲しげに揺れて、
涙が零れ落ちるときは、瞳は色を失い、その口は固く閉ざされて、何も発さなくなる

…でも、
知らないことの方が、断然多い

彼の過去
彼が笑う条件
彼の好きなもの、嫌いなもの

まだその断片しか知らないのに、
何故か私は、すべて知っているような気がしていた

．