ヒモの彼氏とヒモノの私と、 (ページ29)

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・ Juri ページ29

「…冗談だよ」

指先から力を抜いて身を起こす。
どう考えても信憑性の無い言葉は
Aさんにはどう聞こえるんだろう。

「ありがとう、北斗のこと…そんなに思ってくれて」

「樹くん、」

「ごめん、別に試したかったわけじゃないんだけどさ、なんか…頭に血が上った、っつうか
…怖かったよな、本当ごめん」

「ねえ樹くん」

「ちょっと煙草吸ってくる、先に寝てて」

Aさんの声を遮って一人勝手にべらべら喋り
一度も振り返らないまま部屋を出た。

重たいドアをばたん、と閉めると
とたんに静かな廊下に放り出されて
柄にもなく心臓の音ばっか聞こえてくる。

「っは、似合わねー」

乾いた笑いを吐き捨てて、その場を立ち去った。

.

煙を燻らせながら
自分の言葉を反芻する。

「…半分嘘、半分本音だな」

試すつもりじゃなかった、ってのは嘘。
きっとAさんは北斗を裏切らないってわかってたから、
わざとああ言った。

頭に血が上った、は本当。
押し倒す必要なかっただろ、何考えてたんだ俺。

もしあれでAさんが流れに身を任せていたら？
北斗にも同じ思いさせてやるってヤケになっていたら？

「…せめて相手がダイケンじゃなかったらな」

なかったら、何なのか。
つい考えそうになるその先を打ち消そうと
煙を吐き出して誤魔化した。