鉄のハンスの呪いをとけば【Ym*In】 (ページ17)

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資料室ページ17

昨日の失敗から、イライラしっぱなし。それが少し会社でも出ていたようで、今日は話しかけてくる人が少なかった。

「……あの、」

「……なんですか」

それでも、やっぱり、指導係だから、部下は話しかけてくる。
伊野尾さんのきっちりとボタンが閉められた首元を見ると、襟の少し上、よく見なければ気づけないようなところに、首輪が擦れた跡があった。
なんでもっと早く気づけなかった。それほどまでに、がっついてたってこと？俺らしくもない。

「……やっぱなんでもないです」

は？と伊野尾さんの顔を見ると、その顔は、ほんのりと赤く染まっていた。

「……まって、」

こっちきてください、と人気のない資料室まで連れて行く。少し抵抗するそぶりを見せたけど、結局それもフリだけ。

「……忘れらんないの？俺のこと」

「……ちがうし」

『やぶ』さんに相手してもらって、『岡本圭人』に飼われて。それでも足りない？

「けーい、」

低い声で、耳元で。
きゅ、と俺のシャツが控えめに握られた。

「……別に、抱かれたいわけじゃないから」

「そう？物欲しそうな顔、してるけど」

「……ルール破ったら引き返せないの、知ってるくせに」

くよくよ悩んでイライラするのは俺らしくない。この際、伊野尾さんが誰のものだって関係ない。俺に、向くように。
伊野尾さんが、最終的に、俺を見るようになったら、それでいい。それで手に入れられる。
自分の欲しいものへの努力は惜しまないたちなんだよ、俺は。