・ ページ20
・
「君たちとはあまり会話をしたことがなかったな」
場所は移動して幹部要塞。美しい花が咲き、収穫されないまま土に眠っている作物の前。馬小屋から彼の死を悲しむように毛並みの整えられた白馬が鳴いた。ここは、彼、ひとらんさんが担当していた場所であり、幹部にとっての憩いの場でもあった。
「あそこに何もないところがあるだろ。そこに近々、噴水を作ろうと思っていたんだ」
白い手袋をはめた指先が指したのは、綺麗に佇んでいる花の中の中心部。そこには草花は映えておらず、噴水を作るための土台作りが途中まで行われていた形跡があった。眼鏡の奥で細められた目。これが彼の心残りなのだろう。
「俺たちが完成させます」
きりやんが言うと、ひとらんさんは目を丸くさせ、ありがとうと呟いた。
「革命が始まったあの日から、今日まで。この三十年間がとても短く感じたよ」
「...革命?」
「もしかして、知らないの?」ひとらんさんは眼鏡を知的に上げる。彼は我々国の成り立ちを教えてくれた。この国はもともと「ウエスト」と呼ばれた最西端の小国だったらしい。独裁政治が行われ続け、ついに行動を起こしたのが総統のグルッペン・フューラーだった。
「あいつは、最強の仲間を求めて世界を旅したんだ。俺はもともとイースト出身でね。仲間探しの旅途中だった彼と出会ったんだ。...詳しいことは図書館で調べると良い。エミさんが執筆したやつがあるだろうから」
「じゃあ、皆さんは俺たちと一緒だったってことですか...」
マスクの下で彼が笑ったような気がした。俺たちがまだ生まれてもいない頃にも、彼らは戦っていたのだ。きりやんに拳銃を手渡す。しっかりと弾が込められていることを確認したきりやんは、幹部の心臓部に銃口を突きつけた。
「できるだけ、一瞬で死ねるようにしてくれるかな」
「...はい」
俺たちが安心して日々を過ごせていたのは。この国に平穏をもたらしていたのは。他の誰でもない、彼らだった。外国出身の俺が言っていいものかはわらからない。俺たちがこうして出会ったのも、全て彼らのおかげだったのかもしれない。
「またどこかで会おう。今度は戦争のない平和な世界で」
きりやんは引き金を引いた。白の軍服には鮮血が滲み、幹部は後ろに倒れ込んだ。
俺達はできるだけ、幹部の願いを受け入れる。それには今までの感謝の気持ちも込めて。俺らが独自で行った行動に過ぎないものだった。
・
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 54人がお気に入り
この作品を見ている人にオススメ
この作品を含むプレイリスト 
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
葡萄。 - みるひかさん» コメントありがとうございます!そう言っていただけると自信に繋がるので嬉しいです。これからも楽しんでいただけるよう、頑張ります!! (2021年4月5日 16時) (
レス) id: 0d09c9d04a (このIDを非表示/違反報告)
みるひか(プロフ) - 完結おめでとうございます！ストーリーの展開が面白く、情景の表現も綺麗で読みやすかったです。番外編・外伝の更新も是非頑張ってください！ (2021年4月4日 23時) (レス) id: e1eab5f988 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：葡萄。 | 作成日時：2021年3月17日 19時
