好きだ好きだと言うけれど。 (ページ29)

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番外編・柏木さんページ29

一番初めにその事に気づいたのは夏休み前のこと。

同じ講義を受けていた彼を見つけて舞い上がっていたのをよく覚えている。

ただその斜め前の少し離れた横顔を見ていただけなのに、

気づいてしまった。

横尾くんが一人の女の子を愛しそうに眺めているのを。

「髙橋、帰ろう」

彼は講義が終わると真っ先にその人の元へ向かって声をかけていて、

あぁ、彼女いたんだ。

ただ失恋のショックに打撃を受けてぼーっと二人を眺めた。

でも……なにかが違う。

その何かに気づいてしまったらもう自分の感情は抑えられなかった。

「横尾くん、今帰り？」

「うん、柏木も？」

「レポートに手間取っちゃって…あ、良かったらこれから一緒に帰らない？」

「あー……ごめん、俺待ってる奴いるから」

「…………髙橋さん？」

「……え、…………」

「髙橋さん……待ってるの？」

「………うん、まぁそんな感じ」

照れたようにはにかむ横尾くんに打ちのめされた気分になる。

髙橋さん、あなたはずるいです。

彼女でもないのに、いつも横尾くんの恋してる顔を目の前で見れるんだから…

「………片想いでしょ？」

「…………柏木？」

「片想いじゃない…横尾くん、何回も振られてるって聞いたよ……髙橋さんだって…なんで好きでもないのに横尾くんと一緒にいるの？そんなのって…」

「柏木待って、…あいつのこと言うのは勘弁して……」

「…………どうして？」

「………俺の好きなやつだから」

そう笑って「じゃあな」と去っていく横尾くんのことを、やっぱりあたしは好きだった。

「髙橋さんって横尾くんと付き合ってるんですか？」」

『……………そんなんじゃないよ』

初めて話した横尾くんの好きな人は、可愛げのない人だった。

あたしの方が絶対可愛い。

そんなことを思いながら、付き合ってないって聞いた時は心の底からホッとした。

ても、どう考えてもこの人は横尾くんのことが好きなんだろうな。

それも同時に知ってしまった。

喜ぶあたしに髙橋さんは横尾くんのこと「ただの友達」と言った。

どんな顔して言ってるのかこの人は分かってないのかな。

「あたし頑張るね」

そう言い残してその場を去った。

髙橋さん、あなたが素直になれないなら、

ごめんなさい。横尾くんをあたしに譲ってください。