世界で一番残酷な ページ2
「ほんと、めげないよね彼」
食堂の賑やかな雑踏の中、前に座る親友はここ最近会う度にこの話題でうんざりする。
『…………何食べようかなァ』
さり気なく話題を変えるあたしをよそにどんどん勝手に話題を進めていくから、
あたしも半ば意地になってその話には触れてあげない。
「でもよくよく見たらさ、いい男じゃない?」
『……………あ、これおいしそー』
「顔良し、性格も良しときたもんだ」
『……うーん、このセットも捨てがたい』
「ちょっと!聞こえないふりしないでよ」
徹底的に無視するあたしについに声を張って机を叩く彼女に観念して持ってたメニューをパタンと閉じる。
『…りっちゃん勘弁してよ』
盛大なため息を吐くあたしを呆れた顔で見ている彼女は萩原律子。通称「りっちゃん」だ。
「あんたまだ付き合ってないの?」
『………まだって…付き合わないよ』
「甲斐甲斐しくあんたのとこ通って、一生懸命で可愛いじゃん」
『可愛い…って』
あれは可愛いと言うのだろうか。
いつものしかめっ面か、睨んでくるかのどちらかの顔で話しかけてくる横尾くんをりっちゃんは可愛いという。
………確かに笑った顔は素敵だけど。
「付き合ってあげればいいじゃない』
『そんな簡単に言わないでよ』
この話がしばらく続くと思うと頭が痛くなってきた。
もうこれ以上この話しないで、の合図として携帯を触ることに徹するあたしにまだりっちゃんは話をふってくる。
「付き合ってみたらいいじゃない、とりあえず」
『好きでもない人と付き合えないから』
「Aは難しく考えすぎ、もっとシンプルに考えてみなよ」
『りっちゃんが言ってることよく分かんない』
「……頑固ものめ」
ふんっ、と不機嫌な顔をするりっちゃんに、
理不尽なやつ、とあたしも顔をブスッとさせる。
だって仕方ないじゃない。
付き合いたいと思わないんだもん。
好きでもない人に「お試し」で付き合うなんて、そんなこと出来ないよ。
「Aは横尾のこと嫌い?」
『嫌いじゃないよ』
「じゃあ好き?」
『………好きじゃない』
「いい人だとは思うよ」と答えたあたしに、りっちゃんは「罪な女!」と叫んでいた。
好きでもないのに付き合う以外に
この世でこんなに残酷なことはないと思う。
そう言ったらりっちゃんは「大げさだ」と笑うだろうな。
106人がお気に入り
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:ちゅん | 作成日時:2017年2月21日 0時