【鋼の錬金術師】三兄弟の錬金術師 Ⅲ (ページ16)

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母が亡くなった。

エドと双子の姉弟を残して。“あいつ”は結局、トリシャの葬式にすら顔を出すことはなかった。
トリシャが死んでからというもの、Aの様子も少しおかしくなっている。やけに世話を焼こうとしたり、トリシャの髪型を真似たり。

まるで母の面影を追っているような＿＿そんな様子だ。

「……」

目の前にポツンと佇む亡き母の墓石を前にそんなことを考える。

「兄ちゃん、おなかすいた」

隣で足を抱えて座っているアルが口を開く。

「さむいし」

……。

「姉ちゃんのとこにかえろうよぉ」

アルの言葉をきっかけに、脳裏にAの姿がよぎる。トリシャと瞳の色が違うだけで、そのまま生き写しをしたような本当によく似た容姿。

＿＿＿＿もし、トリシャを蘇らせる事が出来たら。

もし、トリシャを“造る”事が出来たら。

「………錬金術の本に、人造人間(ホムンクルス)っていうのがあるんだ」

突風が、髪をなぞる。

「人間は魂と精神と肉体の三つで出来てるんだって」

「うん、ボクも読んだことある」

「……お母さんを元に戻せないかなぁ」

それは、とてもやってはいけないことだ。
自然の理に反する“禁忌”。

「でも、人間を造るのはやっちゃいけない事だって書いてあったよ」

「うん」

「それに姉ちゃんにはどう説明するの？怒られちゃうよ」

「…でもさ、もうAが無理してるとこ見たくないだろ」

Aはトリシャが亡くなってから、明らかに無理をすることが多くなった。いくらエドとアルが家事を手伝おうとしても譲らず、得意じゃないはずの料理までしようとしている。酷い時は自身の瞳に翠色の絵具を入れようとさえしていた。

それはアルも分かっている。だからこそ、エドはわざとAを引き合いに出したのだ。

「…うん、もう見たくない」

「だからさ、二人だけのひみつ」

Aの事だけじゃない、トリシャを蘇らせたい理由はもう一つある。

それは、“母の笑顔がもう一度見たい”からだ。

それに関してはエドとアルだけでなく、Aも同じ思いだろう。

その日から二人は、Aに隠れながら“人体錬成”について研究を始めた。