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「あら、たしからさっきの…」
その声の主は、あの店で会ったロゼという少女だった。
「レト教に興味がおありで?」
「いや、あいにく無宗教でね」
「いけませんよ、そうな!神を信じ敬う事で日々感謝と希望に生きる…なんと素晴らしい事でしょう!」
ロゼは恍惚とした表情で、胸に手を当てながら語り出す。
「信じればきっとあなたの身長も伸びます!」
「んだとコラ」
「どうどう、悪気はないんだから」
突然地雷をピンポイントに踏み抜いたロゼにエドは突っかかりながらも、アルに止められる。アルに開放されたエドは、不貞腐れたように近くの長椅子に座った。
「…ったく、よくそんなに真正直に信じられるもんだな
神に祈れば死んだ者も生き返る…かい?」
「ええ、必ず…!」
エドは呆れたように息を吐いた。私とアルは困ったように顔を見合わせる。
「水35ℓ、炭素20kg、アンモニア4ℓ、石灰1.5kg、リン800g、塩分250g、硝石100g、イオウ80g、フッ素7.5g、鉄5g、ケイ素3g、その他少量の15の元素…」
「…は?」
「大人一人分として計算した場合の人体の構成成分だ。今の科学ではここまで判ってるのに実際に人体錬成に成功した例は報告されてない」
ロゼは意味が分からない、という困惑の表情でエドを見ている。
「“足りない何か”がなんなのか…何百年も前から科学者達が研究を重ねてきてそれでも未だに解明できていない。不毛な努力って言われてるけどただ祈って待ち続けるよりそっちの方がかなり有意義だと思うけどね」
手帳をパタンと閉じながらエドは続けた。
「ちなみにこの成分材料な、市場に行けば子供の小遣いでも全部買えちまうぞ。人間てのはお安くできてんのな」
「人は物じゃありません!創造主への冒涜です!天罰がくだりますよ!!」
「…あっはっはっ!錬金術師ってのは科学者だからな。創造主とか神様とか曖昧なものは信じちゃいないのさ」
ムッと顔を顰めるロゼをよそに、エドは壁画を見ながら笑った。それはどこが自分に向けたような嘲笑のようにも感じて___
「この世のあらゆる物質の創造原理を解き明かし真理を追い求める…神様を信じないオレ達科学者がある意味神に1番近い所にいるってのは皮肉なもんだ」
「高慢ですね。ご自分が神と同列とでも?」
「___そういやどっかの神話にあったっけな。太陽に近づきすぎた英雄は蝋で固めた翼をもがれ地に堕とされるってな…」
その言葉に私は自身の右眼をおさえた。
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作者名:はちまき | 作成日時:2022年2月10日 12時