◇微睡みの六時間目 ページ8
肌寒いとはいえ今日はとても心地がよい。
そんな日の五時間目。なんとか公民の眠たい授業に耐えた隣の少女は、六時間目の数学の授業にて撃沈した。
あきれて笑いそうになったが、僕は僕でそろそろ限界が近い。
数学教師の独特なしゃべり方で紡がれるメルデスださメルディウスだかの定理の説明も右から左へと流れていく。
結局僕も早々に理解を諦め、シャーペンの芯をしまう。
クルクルとペンを回しながら目線だけをちらりと隣に向けた。
相変わらずすやすやと眠っている彼女は身動ぎひとつしない。
呼吸に合わせて背中が上下する。その動きに合わせてボブカットの髪がさらりとゆれた。
柔らかそうだなぁと働かない頭で考える。
撫でてみようかと、そろりと手を浮かしかけて、さすがに留まった。
気恥ずかしさからの動揺か、シャーペンは手から滑り落ちた。カンっと床を叩く音が響く。それでもあの子は起きなかった。
授業に集中していなかったことを教師に知られまいと、僕は慌ててペンを拾おうと屈んだ。
ペンを掴んで顔をあげたとき、教室の反対側に席のある友人と目があった。
奴も授業にはとっくに飽きているらしい。騒がしい動作で隣の少女を起こせと合図を送ってきた。
なんでお前がそんなことを頼むんだと少し不機嫌に考える。大体、席遠いんだからこっち見るなよ。
それに、もう少しこのままでいたい気もする。
しかし、後で何を言われるか分からない。しょうがなく従うことにした。
鬱陶しい動きにフラフラと手を降って答える。
もう一度隣をみて、彼女の机をコツコツと数度叩いた。
それでも起きなかったので、ちょっとためらったあと彼女の背中をそっと叩く。
手のひらから体温が伝わって、柔軟剤の甘い匂いがした。
変に緊張して、どくどくと心臓が高鳴る。
もう一度ぽん、と背中に手をおいた瞬間、びくりと彼女は体を跳ねさせた。
ゆっくりとだるそうに体を起こす。
眩しそうに目を細めたあと、ぱちくりとまばたきを繰り返し、周囲の様子を理解しようとキョロキョロと視線をさ迷わせる。
まだ眠そうなその様子に声を殺して笑った。今日も隣のこの子は可愛い。
反対側の友人も満足したらしい。前を向いて、既に授業に戻っていた。
僕も前を見ると、黒板にはいつの間にか新たな問題が追加されていた。
今度は数学教師の独特なしゃべり方も、言葉として耳に入ってくる。
授業終了まで、残り15分。眠そうなあの子もやっとシャーペンを握った。
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:ハル | 作成日時:2018年7月11日 23時