33 ページ35
「あ、兄上様……！！」
驚いたのと気恥ずかしいのと、少しの嬉しさ。
最初の驚きが去ると無性におかしくなって、つい笑い声を漏らせば、ダリューンがAを見上げる。
「――それに、しっかりしているようで案外泣き虫なおぬしを、置いて逝けるわけないだろう」
その言葉に言葉を失い、目を見開く。
「俺も叔父上も、もちろん殿下も、おぬしを一人にするつもりはない。一人になど、できない」
――鼓動がひとつ、跳ねた。
高い音を立てて、くらりと目眩すら覚える。
自分でも何なのかよくわからない感情に呑み込まれそうになって、言われた言葉と頬に昇る熱に混乱し、うっかり泣きそうになる。
それを押し込み、どうにか声を絞り出す。
「……ひどいです」
「うん？」
「父上様も兄上様も、ひどいです。……ひどい」
ダリューンを見下ろし、顔を歪ませる。
言葉にし難い感情が胸の中にひしめく。
それが何なのかわからなくて、それでもただひとつ、わかっていることがある。
ダリューンは嘘を吐かない。
これまでもそうだった。
だから、Aはダリューンを心から信じている。
「……信じております。兄上様、どうかご無事で。殿下を……父上様を……どうか…………」
言いながら、じわりと視界に膜が張る。
そんな彼女に笑みを返し、ダリューンはその身体を地面に下ろす。
「――約束しよう。留守を頼むぞ、A」
言葉と共に頬に触れる熱い手に泣きそうになる。
不規則な音を立てる胸を押さえ、ざわつく感情を振り切るようにAは強く頷いた。
――そして、パルス歴320年、秋。
西北方の国、ルシタニア王国軍がマルヤム王国を滅亡せしめ、パルス王国に侵入。
アンドラゴラス三世、自ら軍を率いてアトロパテネの野に侵略軍を迎え撃つ。
王太子アルスラーン初陣す。
ときに14歳。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 105人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
瑪瑙(プロフ) - カエデさん» お返事が遅くなり申し訳ありません！そう言っていただけてとても嬉しいです(^^) ありがとうございます！！ (2018年1月6日 13時) (
レス) id: 4aa70732e7 (このIDを非表示/違反報告)
カエデ(プロフ) - とても読みやすくて面白かったです！これからも読ませて頂きます！頑張ってくださいd('∀'*) (2018年1月4日 12時) (レス) id: f2c692053c (このIDを非表示/違反報告)
瑪瑙(プロフ) - あんばーるさん» コメントありがとうございます！気付いたらいつの間にかダリューンの物語ができていました…笑 少しずつ更新していきますので、よろしくお願いしますm(__)m (2017年9月1日 13時) (レス) id: 4aa70732e7 (このIDを非表示/違反報告)
あんばーる - アルスラーン戦記好きな者です！ すごく素敵なお話しでした！ダリューン沼は深いのではまっちゃいますよね(*´∀｀) (2017年9月1日 2時) (レス) id: 212817a7b3 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：瑪瑙 | 作成日時：2017年6月21日 22時
