【オリジナル】花売り少女と時止めさんⅣ【名前変換可能】 (ページ42)

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ノアールはそれを確認すると、ルチルに肩を貸した。ルチルは少し顔をゆがめたが、それがノアールに対しての抵抗なのか、腹部の痛みなのかはよく分からない。しかしノアールは一瞥もすることなく、あいた片手で宙にすぅと上下に線を引く。するとそこが淡く光り、扉が現れた。扉はわずかな間を置いて音を立てて開く。
　ノアールはコツコツと音を立てて、扉の中に足を踏み入れると同時にユーリをじっと見つめた。

「おいで」

　ユーリはノアールの言葉に目をぱちくりと瞬かせた。そしてしばらく考えるようにうつむく。けれど、答えなどは決まっていて立ち上がるとノアールの背中を追った。
　扉の中は鬱蒼とした森だった。険しくはないものの獣道のようで、道は最低限しか手入れされていないようだった。まるで、人を拒んでるようにも思える。そんな森は、何故かあの夢を彷彿とさせた。

「……ここは、普通に入ることは出来ない」
「へ？」
「この森は俺が作り上げた空間だ。地図上に存在してる場所じゃない。まあ……ある手順を踏めば、たどり着けないこともないが一部の奴らしか知らない」

言っている意味がいまいち理解できてないが、恐らくこの人がものすごいということだけは、なんとなく理解した。
　すると頭にコツと何かが止まり、ユーリはひゃっと悲鳴をあげた。何が起きているかしばらく分からないまま、体を硬直させていると、ノアールは立ち止まり、人差し指を立てた。そしてそれを横に向ける。

「この形で、頭の近くちょっと上においてみろ」
「こ、こうですか」

人差し指をたてて横に、頭の上にそっと移動すれば、その人差し指を何か掴む感覚が伝わった。そっと手を下げてみるとくりくりした瞳がじっとユーリを見つめている。
　淡い青色の小鳥だ。

「え……なんで……」
「ここの空間は、怪我をした動物たちがほとんどだ」
「……怪我？」
「ああ、だから治療してやるとたいてい懐くんだよ」

どうやらノアールが治療してるらしい。物好き……という言葉が当てはまるのかもしれない。
　とすれば、先ほど一部の人間しか立ち入れないといっていた意味は、こういう動物を連れ去られないようにするためなのだろうかと、ユーリは首をかしげた。

「えっと、ルチル……」
「……何」
「意識あるうちはまだ余裕あるから……とはいっても急いだほうがいいか」

ノアールはそう言うと少し足早に、道を歩きはじめた。