天女の涙(OS) ページ7
リク作品
Side S
天女という存在を知っているだろうか。
天帝様に遣えし女、天帝様に全てを捧げ、下界への用事は天女が行う。そして純真無垢でなければならない。
私もまた、天女であった。
羽衣伝説や天女の血を飲むと永遠の美しさを得られるなどの逸話から、私たちは命や装飾品を狙われてきた。
ある地方では死神であるとも信じられているが。
但しそれも古来まで。
男は帯刀を止め、女は煌びやかな着物を身に付けるようになった今、そんな逸話も霧のごとく消え、時折下界に降りては、天帝様の御要望に応えるべく奔走しているのだ。
そして今日も、天帝様の御要望を叶えるために下界に降りてきた。
女が好みそうな着物を身に付け、市を走る。
天帝様は気が短くていらっしゃる。天界では明日祭事があり、その為には急がねばならない。
しかし慣れぬ高下駄を履いたせいか、脚は強く張り、脚を出したと同時にぴきりと筋が裏返った。
「いっ…！」
情けない話ではあるが、例え天女とて下界に降りれば人間である。怪我もすれば風邪も引く。私も然り。
倒れ込んだ私を道行く者は遠巻きに見て、そのまま立ち去った。
ああ、情けない。しかし裏返った脚は固く強張り、しばらくは歩けそうになかった。
天帝様に叱られる。私はいつもそうだ。学はあると自負しているものの効率が悪い。手先は不器用で何か制作するのも不得意だ。
天帝様も天帝様だ。不得意だと何度も進言したのに、天帝様は聞き入れてくれなかった。
『翔があれこれと動き回っているのを見るのが楽しい』と、何とも趣味の悪い事を仰っていた。
「大丈夫か？」
心の中で天帝様に向かって舌を出した時、頭上から声がした。澄んだ声だった。濁りのない、ぴんと張った声。
「あ、すまない……」
私が声を出すと、その男は驚いたように目を丸くした。
「うぇ？男なのか？薄桃の着物だったから、てっきり女かと……」
「ああ、私は……」
言い淀むと、彼は私の髪の匂いを嗅いだ。さらりと髪を撫でられ、少し垂れた双眸に見つめられる。
「お前…下界の者では無いな？……天女だろう」
「……違う！私は…！」
「俺、鼻が良くてね。妖の匂いはすぐに分かる」
「妖などの下等な者と一緒にするな…！天帝に遣えし者だぞ！」
睨み付けると男は柔らかく微笑み、脚に触れて私を軽々と背負った。
「何をする…！」
「痛いでしょ？俺の家で休んでいきな」
男の背は広かった。
.
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 261人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を見ている人にオススメ
「オリジナル」関連の作品
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
はな(プロフ) - 歩夢さん» いつもコメントありがとうございます。前回は返せずごめんなさい。なで肩さんの夢なので何でもありにしてみました。また足を運んでくださると嬉しいです。 (2014年9月29日 12時) (
レス) id: eaa9330744 (このIDを非表示/違反報告)
歩夢(プロフ) - 翔さん可愛すぎますね...これからも頑張って下さい！ (2014年9月28日 23時) (携帯から) (レス) id: 536defc02b (このIDを非表示/違反報告)
歩夢(プロフ) - そういう話ですかそうですか.....面白いっ！ (2014年9月18日 7時) (携帯から) (レス) id: 536defc02b (このIDを非表示/違反報告)
智夏(プロフ) - かいてくださり、ありがとうございます!!もう、面白くてやばかったです!!慌てる潤くんかわいかったです。にの、早く気付いて思わず笑ってしまいました笑。これからも、頑張ってください (2014年9月6日 18時) (レス) id: 04c882c90f (このIDを非表示/違反報告)
はな(プロフ) - 歩夢さん» 分かりづらくてごめんなさい！プライバシーの関係で、名前は伏せると決めているので…。ご期待に添えていたら嬉しいです。今後ともよろしくお願いします！ (2014年9月2日 11時) (レス) id: 66d9ffabb2 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：はな
| 作成日時：2014年8月19日 23時
