さてその稀覯本とやらは 。 ページ26
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『ーーーは、無い?』
「嗚呼、悪いんだけどねぇ。無いわけじゃあないんだけど、お嬢さんみたいな未成年に売ることは出来ないんだ」
しまった、とAは内心舌打ちした。
と云うよりも、40後半の小太りの店主が云ってる事は至極真っ当な事であり、Aは「そうですか、良かったです」と誰だお前とツッコミたくなるような、にこやかな笑みで書店を後にした。
「……良かった??」
店主の不思議そうな呟きは、聞かない振りをして。
***
『ま、当たり前だったよね、完全自 殺読本なんか明らかに未成年に売れなそうな内容だし。
太宰さんって馬鹿だった訳、?』
否、違うだろう。あの太宰がそんな失態をする訳がない。
きっと此れは、太宰なりの遠回しな贈り物。血生臭い黒社会とは一変した、“普通”をAに見せる為の。
要は、息抜きの意味もあったのかもしれない。
此処へ来てから、目まぐるしく変わっていく環境と、仲間からの敵意の視線。
そして、大きすぎる心情の変化によって混乱しかけているAへの。
『____だったら、一寸ぐらい楽しんでも良いよね、』
街で普通の事をするのは、生まれて初めてだから。
長い髪を束ねるようにして、予め持ってきておいた紐で緩く結わえる。
紅茶色の瞳は珍しく、きらきらと輝いていて。そこにあったのは、初めての体験に心躍らせる一人の少女で。
たっ、と街へと駆け出したAの足取りは軽やかだった。
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「やあ、中也!」
「…何の用だよ、太宰。」
機嫌悪そうに太宰を横目でちらりと見る中原に、太宰の笑みは濃くなる。
気色悪い、と本音を隠さず伝えると、太宰は気にした様子もなく、羽織っていた外套を右腕にかけて、いつも通りに“爆 弾 を 落 と し た”。
「君の大事なA、今迷子になってるんだよ。」
「_____はァ!!???」
完全に油断していた中原は、落とされた爆弾に慌てて立ち上がる。
今日は珍しく仕事が無かった所為か、休日モードだったと云うのに、一瞬にしてそれがぶち壊された気分だった。
「な、手前、ッ、今日は太宰と一緒に仕事だった筈じゃあ、!」
「置いてきちゃった☆」
「よし太宰其処を動くな、今すぐこの短刀で首を掻き切ってやる」
「うふふ、殺してくれるのかい?嬉しいなぁ」
「喜ぶんじゃねェ!!!」
いつも通りの戯れに、恐らく中原の部屋の前を通りかかった人間は思うだろう。
((嗚呼、いつものアレか))
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y(プロフ) - まだ、見てます。こんなに端麗な日本語で綴られた物語を書ける方、中々いないです。最高の作品です。どうか、いつか続きが読めることを願っています (2月26日 19時) (レス) @page38 id: 02477a501f (このIDを非表示/違反報告)
RENKA - 何周も見てるけどやっぱ飽きないし面白いです!!更新待ってます!!!!!() (2022年11月15日 14時) (レス) id: 345a1df315 (このIDを非表示/違反報告)
おみず - お、おわり……??続きがまた見たいです……この先でも活躍するんだろう夢主ちゃん見たいです……!!! (2022年11月10日 23時) (レス) @page38 id: 0c3a3b3097 (このIDを非表示/違反報告)
黒猫ニサナ - 更新待ってます!! (2022年3月14日 22時) (レス) @page38 id: 1c42f0d3fc (このIDを非表示/違反報告)
RENKA - え、待ってめっちゃ好き。続き気になる…!更新待ってます、頑張ってください!! (2022年2月1日 17時) (レス) @page38 id: b5b9f86a00 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:雪原 ゆずき | 作者ホームページ:http://uranai.nosv.org/personal.php
作成日時:2016年8月4日 13時