気味が悪いの 。 ページ21
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マフィアの拠点へと帰る足取りは、少しだけ軽い。此の儘逃げてしまおうか、だなんて考えは無意味だと理解しているので、後は中原に報告をすれば此れでお終い。
今日の仕事は、実に簡単だった、と呟き乍ら歩くAの後ろから聞き慣れない雄叫びが響き渡った。
『…は、』
それにびくり、と肩を震わせ思わず振り返ると、生き残りが居たのだろうか。満身創痍の状態で立ち上がり、短刀を手に此方へと突進してくる男が目に入った。
其れは、余りにもがむしゃらで。きっと理性などぶっ飛んでいるのだろう。彼の意識は、仲間を殺した目の前の“少女”を殺す事しかなかった。
故に。
「うォぁあああああああらぁああ!!!!!!!」
奇声とも取れる音階の外れた音と、溢れんばかりの殺気を一身に受けたAは少しだけ身を固くしてしまった。
しかし、一瞬躊躇してしまったのはそれだけではない気がした。
ーーー必死に迫り来る死から抗おうとする、生への執着。
『……そんなに、』
男のその様子を見て、Aはぽつりと呟いた。
そして、左の革手袋を外して迫り来る男へと左手を向ける。
人を殺すのは、ただそれだけで簡単に出来る筈なのに。
【ーーー異能を使って人を殺さなければ良いんじゃないか?】
またしても、頭に浮かんでくるのは“あの男”の言葉で。Aが異能を使って人を壊そうとするのを、躊躇させる。
違う、殺さなければいけないのに。
自分に求められているのは、異能だけ、それだけの筈なのに。
「あ"あ"あ"あァぁあああ!!!!!」
徐々に震えていく左手に、男の手が触れた瞬間。
『…っあ、』
“生”は、簡単にその姿を崩した。
その左手に触れたのは、中原に触れた時のような温もりではなく、無機質な冷たさ。
『_____胸糞悪い、』
構成員達の息を呑む音が聞こえる。
嗚呼、この形容し難い気持ちの悪さは何なのだろうか。
泥水に砂糖を混ぜたかのような、反吐が出るほど気持ち悪い。どろどろとした感情が、ぐるぐると掻き回されていくような。
今まで、人を殺す事なんか何とも思わなかったのに。
そういえば、今日は一回も自らの手で人を殺さなかった気がする。
可笑しいよ、可笑しい。何だか自分の中の何かが変わっているような気がして。
「ーーー矢張り、化け物は化け物だな、」
何処からか聞こえたその言葉にどうしようもなく耳を塞ぎたくなった。
(違う、違うの繰り返し)
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気付いてしまったのは、不幸か幸いか 。→←心の何処かの変化 。
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y(プロフ) - まだ、見てます。こんなに端麗な日本語で綴られた物語を書ける方、中々いないです。最高の作品です。どうか、いつか続きが読めることを願っています (2月26日 19時) (レス) @page38 id: 02477a501f (このIDを非表示/違反報告)
RENKA - 何周も見てるけどやっぱ飽きないし面白いです!!更新待ってます!!!!!() (2022年11月15日 14時) (レス) id: 345a1df315 (このIDを非表示/違反報告)
おみず - お、おわり……??続きがまた見たいです……この先でも活躍するんだろう夢主ちゃん見たいです……!!! (2022年11月10日 23時) (レス) @page38 id: 0c3a3b3097 (このIDを非表示/違反報告)
黒猫ニサナ - 更新待ってます!! (2022年3月14日 22時) (レス) @page38 id: 1c42f0d3fc (このIDを非表示/違反報告)
RENKA - え、待ってめっちゃ好き。続き気になる…!更新待ってます、頑張ってください!! (2022年2月1日 17時) (レス) @page38 id: b5b9f86a00 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:雪原 ゆずき | 作者ホームページ:http://uranai.nosv.org/personal.php
作成日時:2016年8月4日 13時