※ Fate and love 5 ※ (ページ8)

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195 ゴブレットページ8

とん、とん、とん、

手すりと目を頼りに、一歩ずつ上に上がる。
辺りは怖いくらいに静かで、人の気配は愚か、ネズミの気配すらしない、

二階にたどり着いたAは、ニオイの元凶がすぐさまわかった。
突き当たりの部屋に、転がっているそれ。
ぼんやりとした影しかわからないが、どうやら人だったもののようだ。

帰りたいとしか思わなかった、だがここで引き返しては何にもならない。
出来るだけ視界に入らないようにそろそろと部屋に踏み込む。

当然と言えば当然だが、部屋には誰もいなかった。

だが、少し前まで誰かがいたのだろう。
この季節には不釣り合いな暖炉に、何故かまだ灰が残っている、その上よくよく見れば燃え残った角材もある。

「誰かがいたのは確かね…」

その正体を知っているのは、あの物言わぬ死人くらいだろう。

「…せめてこれくらいはしておかないとね。」

埃まみれのタペストリーを引き摺り下ろし、そっとその遺体に掛ける。
とその時、Aの視界にキラリと光ったそれ。

しわくちゃの指先に影になって見えなかったが、なにかの鍵のようだ。
恐る恐る手に取り、しばし考え込むA。

なにか心当たりがあるのか、トントンと再び階段下に降り立ち、家中の鍵穴を調べる。

かちり、とハマったのは裏口の鍵。

「…成る程ね。」

扉を開けた先にはあるのは地面を覆い尽くさんばかりの雑草。
だが目を凝らせば、裏門のようなものが見える。

躊躇なく雑草を踏み抜いていくと、ガサゴソと、人の気配がした。
Aが隠れるより先に現れたのは、なんと子供だった。

「わ、なんだ、人いるじゃん。」

Aのことをよそに、失礼な口を聞いた少年は、仲間にちらりと視線を送り逃げ出した。

「待ちなさい！」

鋭い声で呼び止められた少年達は、びくっと肩を震わせてその場に停止した。

恐る恐る振り返った先にいるのは、真顔のまま少年たちを見下ろすA。

「ひっ」

二、三人の少年が腰を下ろしたのを黙って見届けたAは、そのまま近寄ってその顔を丹念に見つめた。

「貴方達、ここの近所の子？」
「そ、そうだよ、なんか悪い。」
「いいえ、なにも。
ねえ君達。
ここ数ヶ月の間、あの家に灯は灯っていたかしら？」

てっきり怒られるのかと思えば、尋ねられたのは予想の斜め上を行く問題。
ちらりと心配そうに視線を交わらせた少年達だが、やがてこくんと素直にうなづいた。