189 ゴブレット ページ49
「そう…これはその、ゲラードというもののエンブレムなのね。」
「そんなことも知らずに僕にそれを見せてきたのか、不愉快だ、もう…しまってくれ。」
くっと視線をそらしたクラムに同情するようにAは服の下にそれをしまった。
「ごめんなさい、貴方がそんなに嫌がるとは思っていなかったから。
申し訳ないことをしたわね。」
「いや、こっちこそ取り乱した。
お互い様だ。」
本当に不愉快な代物だったのだろう、今もまだ荒い息が収まっていないクラムを横目に、Aはしとしとと音が小さくなり始めた窓を見つめた。
曇りつつある空からついに雨が降り出したようだ、
「(全く、今日はいやな予感しかしないわね…)」
「僕もひとつ聴いていいか。」
さらりと落ちた髪を耳にかきあげた時だ。
いつの間にかAのすぐ傍らまでやってきていたクラムは、まっすぐに淡いブルーの瞳を見つめた。
「それは、大陸にいる人間ならたいていは知っている代物だ。
君は知らないようだがゲラード・グリンデルバルドは僕の祖父も殺した、大陸では有名な殺戮者だ。
そしてその事実を知らないとしたらこの島国であるイギリスの魔法使いくらいだ。
なぜなら、あのアルバス・ダンブルドアがこの国にいて、やつに悪さをさせなかったからだ。
僕が君に教えられるのはこれくらいだ。
その上でひとつ聞きたい。
君はフランス語を話すボーバトンの生徒だ。
その君がどうしてそのエンブレムの意味を知らないんだ？」
純粋な瞳でまっすぐ見つめられたAは、さあ、どうしてかしらと呟いた後、間を空けずオブリビエイト、と唱えた。
瞬間白目をむいて倒れたクラム。
ごめんなさいと小声で謝ったAは、くるりと背を向けて立ち去ろうとする。
「試合直前の選手にこんなことをしたら罰則だけではすまないぞ、A。」
鋭く響いた声にバッと振り返ったAだが、エクスペリアームスと唱えられた呪文には反応できなかった。
するりと掌中から抜けた杖は、まっすぐ彼の元に向かう。
「…ドラコ。」
プラチナブロンドの前髪越しに、鋭くにらんでくるドラコはAの杖をじっくりと見つめ、
「いつだったか、君は言ったよな。
君の願いをひとつかなえたら、僕の知りたいことを教えてくれると…
この場のことは誰にも他言しない、その代わり君の正体を教えろ。」
灰色のまなざしからは一切の躊躇もなかった。
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作者名：アサノ x他1人 | 作者ホームページ：
作成日時：2018年6月2日 16時
