176 ゴブレット 秘密を知る者 ページ36
「はっ、なんだよそれ。」
Aにつられるようにドラコの表情も歪んだ。
「そうか、そういうことならもう二度聞かない。
悪かったな、」
ぐっと顔を下げ、Aの横を通り過ぎたドラコ。
一方のAはそこに根っこが生えたように動けない。
悔しさで歪んだ口元はぎゅうっと唇を噛む。
「情けない…」
ポツリと溢れた独り言は、自分に対する叱咤だった。
ネビルの前で猫を被れなかった事
喋る肖像画を前に反論してしまった事、
あの見慣れないゴーストの前で取り乱した事、
それらの自分の弱さに、Aは自分に腹が立ってしょうがなかった。
「本当に「情けないわねー」
他人事のように響いた女性の声にAは顔を上げた、
「…貴女は、」
「久しぶりね、A、まだクラリスと呼ぶの早いかしら？」
豊満な巨体を揺らした《太ったレディ》は、はあと切なげにため息をついた。
「まあったく、駄目じゃない、いくら好きだからってあんなに取り乱したら。
ここにきた時の貴女の方がよほど強く見えるわ。」
「太ったレディ、」
「クラリスのことでここまで追ってきたのでしょうけど、私から言えることは何もないわ。
それとも追ってきたのはクラリスだけではないのかしら？ん？」
女性らしく小首を傾げる仕草は、彼女らしく愛嬌があって可愛い。
「どうしてそこまで…」
「私たちがただの肖像画だと本気で思っているの？
私たちの情報網を侮らないで欲しいわ。」
「それは、私のミスね。」
困ったように笑うAに太ったレディは、悲しそうに笑った。
「何を背負っているのかは知らないけれど、貴女、年々あの女に似てくるわね。」
「あの女とは？」
「貴女もよく知っている、クラリス・マロニエよ。」
「え、でも…クラリスは沢山いるわけで、どのクラリスのことだか…」
困ったように笑うAに対して太ったレディは何故か、顔を顰めた。
「貴女何言っているの？
この世でクラリス・マロニエと言ったらたった一人しかいないのよ。」
「…え？たった、ひとり？」
片言のようにおうむ返しをしたAは、どこか既視感を覚えた。
「(そういえば、シリウス・ブラックも同じようなことを…)」
「まあ、クラリスを名乗っているのがそこかしこにいるのなら、皆嘘つきでしょうね。」
「え？」
「だって、クラリスなんて名前、誰も知らない筈なんだから。」
さらりと告げられた真実、Aの思考が混乱の渦に叩き込まれたのは言うまでもなかった。
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作者名：アサノ x他1人 | 作者ホームページ：
作成日時：2018年6月2日 16時
