144 ゴブレット 「はじめまして」 ページ4
「待っているわ、ドラコ。」
耳の奥にこびりついてやまないその声に、ドラコはある種の寒気を覚えた。
仮面舞踏会の夜、バルコニーの椅子に座った状態で眠っていたドラコを起こしたアルフは、こんなところで寝るなよと苦笑していた。
何故自分が寝てしまったのかドラコ自身自覚はなかったが、袖口から漂う甘ったるい匂いから、薬の類を盛られたと検討が付いていた。
勿論、自分を眠らせた可能性の高い例の客がいなかったかアルフに尋ねたが、結果は空振りに終わった。
黒地に金の装飾を施した仮面をつけ、真紅のドレスを見に纏うと非常に人目につきやすいなりにもかかわらず、なんとそんな女性はいないと宣ったのだ。
当然、あり得ないとドラコは吠えた。
「デタラメ言うな。
僕は確かにその女性と踊ったんだぞ。」
「って言ってもな…魔法でいくらでも姿は変えられるし、何かに唆されたんじゃないのか？」
どうやらからかっているわけでもなく、本気でわからないらしい。
終始首を横に振っていたアルフは、すまないなと淡々に謝るだけだった。
一人邸に戻ったドラコだが、あやふやな記憶の中でもその女性と踊ったことだけが鮮明に蘇っている。
情熱的な真紅のドレスに、人を酔わせるような意味深な笑み、決して見ないふりなんてできない艶やかさを前に、ドラコは物の見事にハマってしまった。
「寝ても覚めても考えてしまうことってあるかい？」
ドラコがふざけるなと一蹴したそれは、皮肉なことにドラコ自身を埋め尽くしている。
悪夢こそ見なくなったが、これもある意味悪夢に等しい。
「はあ…」
深いため息を吐いたドラコは、全身大の鏡の前で最後の身だしなみの確認をしていた。
純血、魔法、紳士を重んじるマルフォイ家では、無様な醜態を晒すものなど論外と言うのが父親の考えだ。
お陰で何度かハリーたちの前で恥をかいたが、今更となってはそれはどうでもいい。
目を瞑れば、脳裏によぎるのは美しいアッシュブロンド。
はらりと上下するドレスの裾、そして控えめなそれでいて何処と無く色気にあふれた控えめな口元。
思い出す度に何をやっているのかと口を手で覆うが、それでも緩んでしまいそうな口元は引き締まらない。
「っ、いい加減にしてくれ。」
それは意味深なセリフを残して消えた彼女へか、
それとも認めなくない感情といつまでも悶着している自分へか
どちらにしても顔に集まった熱は暫く引きそうには無かった。
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作者名：アサノ x他1人 | 作者ホームページ：
作成日時：2018年6月2日 16時
