169 ゴブレット ページ29
白昼夢でも見ているような気分になったAは、聞いてはいけないものを聞いた気がして、
ふるりと頭を振った。
そもそもここの絵画たちは移動ができるのだ、その場から消えたところで動揺なんてしてはいけない。
だが、かたかたと震える指先は、ぎゅうっと二の腕に食い込んだ。
Aにして見れば、全てのタイムリーさが憎かった。
あんなタイミングでゴネてくるドラコも、
場の空気に酔ったネビルにあんな顔をされることも、
触れられたくないところを、抉る勢いで探ってくる謎の男女も、
今となっては憎い。
ぶわりと憎悪の感情に塗れた時、
Aの視界を白いスカートが遮った。
見覚えのあるそれに反射的に顔を上げると、そこにはAがいた。
アッシュブロンドの髪を揺らし、淡いブルーの瞳をした、
Aそのもののような人が。
「貴方、」
とどめの存在が登場したことにAはひたすら困惑した。
しかし、焦るAを他所に、少女はニッコリと唇を釣り上げた。
紛れも無いAの笑みで。
「驚いた？
なんて聞くのも野暮でしょうね。
初めまして、夢の中ではお世話になったわね。」
困惑したままのAの唇は、夢？と不思議そうにゆがむ。
だが困惑、驚愕、疑惑の顔が混じったAの心象など女には関係ない。
ゼロ距離とも言えるところまで詰め寄った女は、そっと耳元に囁いた。
「あの時の答えを聞きに来たわ。
ねえ、クラリスの名前、欲しい？」
このタイミングでなんて事を聞くのか、
そもそもどうやってここにきた。
突っ込みたいことが山ほどある中、Aは被りを振った。
冗談じゃない。
欲しくない、
そんな言葉にしたらどうしようもない真っ黒な感情が埋め尽くした時、
女は妖艶に笑った。
「ふふ貴方ならきっとそう言ってくれると思ってたわ。
ねえ、苦しい？
苦しいでしょう。
何にも知らない顔をしていても、裏切られる覚悟があると言葉にできても、あんな顔をされたら、
やっぱり悲しいわよね。」
こてんと小首を傾げ、当たり前の様に尋ねる彼女が憎かった。
なんだって私ばかりこんな目に？
理不尽だわ、
心の声が言葉にならない、
歯ぎしりする音が耳元で聞こえる。
本音が首元まで迫った刹那、
ひんやりと全てのものを覚まさせるような感触を覚えたAは顔を上げた。
「そう、その表情よ。
A。
間違っても受け入れてはダメ。
見定めるのよ、
その時が来るまで。」
女の妖艶な笑みを最後にAは倒れた。
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作者名：アサノ x他1人 | 作者ホームページ：
作成日時：2018年6月2日 16時
