167 ゴブレット 無礼候の果て ページ27
ネビルと別れたAは、静かな廊下を一人で歩き続ける。
今夜は無礼講。
ドレスに身を包み、カツカツと徘徊し続けるAに誰も声はかけない。
静かな間だけが続く中、Aはまとわりつく様な視線を鬱陶しそうに払いのける。
だがいくら振り払っても熱視線が冷める様子もない。
「なに。」
ジロリと睨みつけたその先には妙齢の男が一人、ニコニコと微笑みながらAを見つめている。
「いや、なに失礼、ちょっと昔を思い出していただけさ。」
「それは私に関係がある事なのかしら？」
「ああ、大アリだとも。
その歩き方といい、姿勢といい、目つきといい、本当にクラリスそのものだよ。」
にこりと付け足す様に微笑んだ男にAは眉を寄せる。
「それはどのクラリスの事なのかしら？」
「何言ってるんだ。
クラリスと言ったらあのクラリスだけだろう。
君もよく知ってるはずさ。
なんせ君は運命に選ばれたんだから。」
脈絡のない話を唐突に振られても非常に困る。
そう無言で、視線だけで文句を言ったAに、今度は男の方が怪訝な表情になる。
「君、まさか何も聞いていないのかい？」
続いて落ちる沈黙。
一向に拉致があかないと判断したのか今度は男は焦れる。
「何を黙ってる。
言ってくれなきゃ分からないだろう？」
「……………………ってる、」
蚊の鳴くような声に男が眉をひそめた刹那、ポロリとAの目から涙が落ちた。
「わかってる、
自分が何者なのかわからないことくらい、自分がよく知ってるわ、、」
グッと握った拳はフルフルと震えている。
ひき結んだ唇は情けなく震えて、涙で濡れた。
「運命って何よ、
勝手に決めないで、私の知らないことばかり、みんな揃って口を噤んで、
私を振り回すことそんなに楽しいのかしら？
もう、嘘は吐きたくないのに、」
どうしようも出来ないと諦めた時、人は嗤うという。
「貴方だってそうだわ。
運命なんて言葉で軽々しく、片付けないで、」
震える唇から嗚咽が漏れた時、Aに何とも言えない笑みが浮かんだ。
だが、男の表情は微塵も変わらなかった。
「そうか、だからなんだ。」
ひくりと喉が震える。
額の向こう側から初めて殺気を感じたAは弾かれた様に顔を上げた。
凪いだような瞳、意志が強いのか口元は強く引き結ばれている。
「分かっているだろうが敢えて言う。
戻ってきた以上は引き返せない。
たとえ学校中の人間が君を思い出しても、もう何も取り返せないんだ。」
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作者名：アサノ x他1人 | 作者ホームページ：
作成日時：2018年6月2日 16時
