何気ない日常を… (ページ32)

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戸惑い【アルフ・ハンナ】ページ32

休日の午後、一人図書室の前で右往左往している男がいる。
さらさらと揺れる黒髪の狭間から覗く飴色の瞳に、道行く生徒はその姿を見てはコソコソと引き返していく。
だがそんな生徒たちの中にも例外はいて、

「まあ、アルフじゃありませんの、一体どうなさって？」

サラサラと揺れるハニーブロンドを黙って見つめていたアルフが、黙って踵を返そうとすると、

「お待ちになって！」

とあろうことかいきなりのタックル。
ぐっ、と情けなくも呻き声を漏らしたアルフは、自分の矜持のために倒れることだけは耐えた。

「…何するんだよ脳内花畑が。」
「まあなんてこというの？
お花畑ほど美しいものはなくってよ、それが頭のうちにあるなんて…なんてもったいない。」

と明らかに突っ込む点が違うどうしようもないハンナに、呆れたアルフは、立てよと腰からひっぺがした。

「じゃあな。」
「ですからお待ちになってと言ったでしょう？」
「俺はお前に用はない。」
「でも、ヨンリさんにはご用があるんじゃくって？」
「何？」

と思わず反応してしまった自分に、アルフはほぞを噛んだ。
振り返った途端のその笑顔と言ったら…

すぐさま言い訳をはじき出したアルフより先に、何故か笑顔は曇ってしまった。

「ああ、でもこんなことやっぱり言えませんわ。」
「おい。」
「だって、口が裂けても言えませんわ。
先程、あのヨンリさんが愛の証である鈴蘭を手に、嬉しそうに微笑んでいらっしゃったことなんて。

絶対に言えませんわ！！」

と勢いよく振り向いたのはいいが、そこに既に男の影はなかった。

「まあアルフったら、せっかちなんだから。

そういえばこの間も同じ鈴蘭を持っていたような…まあきっと気のせいでしょうね。」

と微笑んだ彼女。
よもやこれがとある二人の関係を変えてしまうとも知らずに。

ーーー

いつもの調子で庭園に来ていたヨンリ。
そこはスネイプ教授に特別に許可された温室で、マグル界にも咲く花が温室の一つを埋め尽くしている。

「さあさ、今日も綺麗な花はあるのか…な……」

スキップしていた足は止まり、目はある一点に釘付けになる。

真っ赤なリンゴの下敷きにされた見覚えのある栞、それはあの悪魔にプレゼントしたヨンリの傑作だ。

「なんで、ここに…」

ざわつく胸を押さえながら手に取ろうとすると…

「遅かったな。」

とすぐ耳元に低い聞きなれた声がする。
振り向く勇気すら与えない、そんな雰囲気にこくんと小さくヨンリが息を飲む。