何気ない日常を… (ページ28)

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手紙【ヨンリ】ページ28

「meに何をさせる気なの？」
「お前に何かを？

ふんっ、お前にそんな利用価値があると本気で思ってるのか？」

昨晩、アルフと話した言葉を一言一句ヨンリは思い出していた。
談話室にある机を前に座り、便箋が目の前にある。ただ、それは未だ何も書かれていない。

様々な厄介事があるが、随一にはただの魔法使い出ないことが挙げられる。
ヨンリの血筋の四分の一は妖精族の血である。そして何より、ミッシェル家の元の血筋を辿れば、人魚だ。

『祖先帰り』と言うのか、ヨンリにはその人魚の血が色濃く受け継がれた。
正確には、人魚ではなく水中人(マーピープル)。
三大魔法学校での第二試練で現れた者たちだ。
高度な知性を持ち、水中で生きることができる水中人(マーピープル)。
ヨンリも高度な知性を持ち、祖先の生き写しと言われる程にそっくりだったのだ。

これを幸いと捉えたのは、ヨンリの育ての両親だった。
「お前には、利用価値がある。だからこそ、このミッシェル家に居られると言うこと。各々忘れるなよ。」

「meには利用価値があると思ったんだけどなぁー。」
初めて言われた、利用価値が無いということ。この言葉は、ヨンリの心の中にある重りを一瞬で取り除いた。

ぼんやり、と周りでお喋りしている後輩や本を読んでいる同学年を見つめる。
「おい、ヨンリ……。」
その時、ヨンリに声をかけたのはレイだった。
ゆっくりと流れるようにそちらを向けば、困惑した顔で彼は立っていた。
「なぁーにー？」
どうしたの？と言葉を続ければ、こっちのセリフだと頭を叩かれた。

「あの悪魔野郎と急に話さなくなったと思ったら、今日は普通に話してる。

一体何があったんだ？」
根本の部分を聞いてきたレイにヨンリは笑った。
「ｶｶｶッ、何があったんだろーねぇー？レイは気になるのぉ？」

口元を抑えて愉快そうに笑うヨンリにレイを嫌そうに眉を寄せた。
アルフのことを考えたからだ。

「別に何もないよ。」
ヨンリは肩に乗る銀鼠のユンを触りながら、微笑んだ。
肩に乗るユンは嬉しそうに鳴いている。

「不器用なんだよぉ。」
艷やかに笑ったヨンリは一体誰のことを思ったのか。

「ま、お陰で踏ん切りがついたのよ。」
ヨンリが書こうとしていた手紙の宛先は、ミッシェル家。

どういうつもりで彼女がこれを書くのかは、彼女にしかわからない。
一つ変わったことがあったとすれば、ヨンリが火傷のあとを気にしなくなった事だろう。