何気ない日常を… (ページ2)

今日:2 hit、昨日:0 hit、合計:2,938 hit

静寂【ノヴァ・シャロン】ページ2

「シャロンさん。」

と一声呼ぶと彼女はすぐさまこちらを向く。
長くて綺麗な黒髪を揺らす彼女は、怜悧な瞳でやってくる彼を見つめる。
そしてその佇まいひとつ取っても全く隙がない。

「あらノヴァじゃない。
一体どうしたの？」

優等生を思わせる綺麗な笑顔と、冷笑的でシニカル一面と言う二つの仮面を持つ彼女。

「いえ、特に用向きはありません。
いらっしゃったから声を掛けたんですよ。」

そんな彼女は今はどちらの仮面もつけて居ない。

「あら、そうだったの。」

飾らない素直な笑顔にノヴァもつられるように笑った。

「良かったら一緒に行きません？
この後の授業は貴方のお得意の分野でしょう？」
「はは、シャロンさんには負けますけどね。」

と苦笑いしたノヴァはごく自然の扉を開け、その先を譲る。
そんな彼のスマートな動きを目で追いつつも、譲られた部屋へと一歩踏み込んだシャロン。

暗く何処からか瓶を小突く音が響き、虫の羽音が折り重なる静かな部屋。
だがそれはあまりにも静か過ぎた。

「変ね？
この時間はここのはずだけれど…」
「部屋もムーディー教授で間違えては居ないようです。」

教壇の上を漁って居たノヴァはかつんとシャロンの隣に降り立った。

「やっぱり20分前は早すぎるのでは？」
「…それもそうね。」

と肩をすくめた2人は、ごく当たり前の様に前の席に2人並んで座り込む。

「ねえ折角だから、無言呪文の練習をしない？」

とまさかのお誘いにノヴァは一瞬びっくりしたが、勿論と鮮やかな笑顔で答えた。

これが悪戯仕掛け人の2人組なら、部屋に悪戯を仕掛けて滅茶滅茶にするし、
相手がエドワードならきっと半日経っても途切れないで、シャロンを口説くだろう。
レイとアルフが揃えば2分と持たずに殴り合いの大喧嘩になるし、
マイケルなら所構わず生き物を実験にして、授業も聞かずに飽きて出て行くだろう。

でもここに居るのは紳士なノヴァと、冷静沈着なシャロンだけ。

もう一度戻ってきた静寂さの中でも、2人の音のない掛け合いは延々の時間の様に続く。

ノヴァは大真面目に予習に励んで居たが、ふと感じて居たはずの抵抗が無くなり、顔を上げる。

見れば真剣な眼差しの彼女が黙ったままノヴァを見つめて居た。

「あの、…」

そう言い切る前に、予鈴が鳴り響き、ドヤドヤとやってくるのは生徒たち。
戻ってきた音の中で、意地悪く彼女は小さく笑ったことを、まだノヴァは知らない。