126 アズカバン 別れ ページ33
「(それにしてもこうもあっさりとついてくるとはねえ、少し前まで威勢良く啖呵切っていた小娘とは思えないわ。)」
がたんと大きく揺れた列車の中、老婆は隣で景色を眺めたままのAを一瞥した。
11歳から2年と少し。
少し前までは幼さの残った愛くるしい表情を見せてた彼女からは、段々と大人の色気にも似たようなものが漂う。
見つめすぎていたのだろう、不意に振り返ったその表情はまさに鬼のようだった。
「何か?」
「いやね、こうも簡単に吹っ切れるのかと思って感心していただけさ。」
「吹っ切れた?なにを世迷言を。
私はなにも未練なんかない。」
そもそもの前提すら打ち崩すように一蹴したAだが、どことなく言葉の調子は弱々しい。
これ以上詮索をしたところで何にもならないと、クラリスも判断したのだろう。
ふうと、息を吐いた彼女も同じように黙って外の景色を見つめていた。
ーーー
ドラコが眠りについたのと、淡いブルーの双眼がパチリと覗いたのはほとんど同時だった。
そしてドラコが夢に見ていたように、Aもまた夢を見ていた。
彼女がまだ幼く、そして立派な魔女と言う、素敵な夢を持っていた頃へ。
ドラコのつぶやきで本当は彼女も目覚めていた。
だが髪に触れられた指先、すぐ近くにある吐息。
全てがAの知るそれで、目を開ける勇気もないまま、ドラコが眠ってしまったその時まで、Aは頑なに瞼を閉ざしていた。
すうっと夢の中に落ちたその音に、Aはゆっくりと身体を起こし、憎らしい綺麗なその横顔をじいっと見つめていた。
「…」
なにも知らずに眠り続けるその穏やかさといったら、普段の悪態のつきようからは全く想像が出来ない。
「(…起きなさいよ、馬鹿。)」
ぺちっと頰を叩いてみるが起きる気配は微塵もない。
それどころか嫌そうに避ける有様だ。
「(ほんと何にも知らないんだから。)」
呆れるように、そしてどこか愛おしげに、ふんわりと微笑んだAはすくっと立ち上がる。
ほおから首筋に伸びた指先にキラリと輝いて指先に絡むのは、遠い昔に約束したそれ。
泣きそうな、悔しそうな表情のAは手の中のそれを握りしめる。
「馬鹿…」
さよなら、と優しく小さく響いたその言葉が、彼に届くことはない。
きっちり閉じられた瞼が開くことはない。
くるりと名残惜しげに揺れたアッシュブロンドは、きらりと朝日を受けてプラチナのように輝いた。
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アサノ(プロフ) - ああ、それでしたら、hp2018で開きますよ。分かりにくかったらすみません。 (2018年4月4日 22時) (レス) id: 35d7b1e41a (このIDを非表示/違反報告)
レイラ(プロフ) - branding and Loveという小説の全てにパスワードがかかっていて… (2018年4月4日 21時) (レス) id: f5c10c9f75 (このIDを非表示/違反報告)
アサノ(プロフ) - マイボードの方に来ていただければ分かりますが、どの作品でしょうか? (2018年4月4日 21時) (レス) id: 35d7b1e41a (このIDを非表示/違反報告)
レイラ(プロフ) - アサノさんの作品でパスワードを入力しなくては見れない作品があるのですが、パスワードは教えてもらえるのでしょうか? (2018年4月4日 21時) (レス) id: f5c10c9f75 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:アサノ | 作者ホームページ:
作成日時:2018年3月28日 15時