と 魔王の"命令" ページ8
一方呼び出しに遅れたAは、内心の動揺を押し殺しながら結城中佐の部屋と訪れていた。
「(慌てたことは音でバレてるだろうけど、でも…)」
魔王直々の説教は嫌、と悩んでいるところへ、さっさと入ってこい、と中から声がかかった。
ええい、どうにでもなれと覚悟を決めたAは、普段の"読めない"表情に顔を戻して、堂々と結城中佐の部屋に入ってきた。
「お呼びですか?中佐。」
緊張という単語は何か、そう思わせるほど表情を隠したAは、魔王と呼ばれる結城中佐に睨まれようとも一向に顔色が変わることはなかった。
だが事前の動揺はダダ漏れの様で。
「次は直接言いに行く。」
「…はい。」
お咎めなしの忠告だけを受け取ったAは、内心ホッと安堵した。
だが変わらず顔の表情は変えず、結城中佐の動きだけを目で追っていた。
結城中佐は本をおもむろに取り出し、
「二週間、この女を演じきれ。」
ばさっと卓上に放る。
Aはやはり表情を変えることなく、分厚い資料の束を、ペラペラペラと淀みなく捲っていく。
目線の先は捲られていく資料の文字を追い、一拍も開けずに五行先、七行先とつらつらと読み取っていく。
最終頁、ペラッという音を最後に、Aはひとつ溜息を吐いた。
「一つお訊ねてしても良いですか?」
「なんだ。」
「やり方は私の一任でよいのですね。」
「ああ、貴様に任せる。」
「承知しました。」
書類を元に戻して部屋を退出、しかけたところで声をかけられた。
「A」
「はいなんでしょう。」
振り返った拍子に黒髪が揺れる。
女にしては化粧っ気のない容貌は、幽霊かと思う程存在感が薄い、それでいて目だけははっきりと対象を見つめる。
厄介な女だ、内心そうほくそ笑んだ結城中佐は、一つ彼女に忠告をした。
「とらわれるなよ。」
「…誰に言ってるんです?」
にこりと微笑む。
そう、ただ目元を下げて唇の端をちょこっと釣り上げて、小首を傾げる。
それだけだ。
それだけでいい、
「ふん釈迦に説法か。」
「ふふ、ご冗談を。」
そうでなくは"A"など務まらない。
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アサノ(プロフ) - masyさん» 返事が遅れてすみません。そんな風に言ってた抱けるだけでとっても嬉しいです。masy様と趣味が合うなんてこちらこそ光栄です笑 (2017年12月27日 1時) (レス) id: 35d7b1e41a (このIDを非表示/違反報告)
masy - ハリーポッターのも読んでます!もうアサノさんの小説が好きすぎて……(笑)とても面白かったです! (2017年12月24日 20時) (レス) id: 065dd9adad (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:アサノ | 作成日時:2017年7月9日 14時