す 最後の"微笑み" ページ48
一方Aは一旦日本を離れ、香港へ。
理由は裏帳簿の出元と信憑性そして、スミダの代わりを作るのが目的だった。
有効期日は八日であり、スピードと正確さが求められたが、Aにはそれだけあれば十分だった。
さて、片一方の裏帳簿を奪取するにはタイミングが必要だった。
それが昼間の"メイド失踪事件"にある。
仕組みは単純で、目的は"靴"にある。
マクロン氏はイギリス文化を、
クラーケン氏は日本文化を、
それぞれ魅入った文化を自らの生活に投影していた二人は、当然"靴"の扱いも違う。
玄関先で靴を脱ぐ習慣のあるクラーケン宅に、メイドとして波多野と実井を雇わせたのはそこにある。
更にAは続きのシナリオを予想し、それを利用した。
マクロン氏は重度のイギリス厨だ。
加えて、偽物の靴底に気がつけば、スミダの結末は容易に想像ができる。
"日本人がダメなら、海外の"信用"できる人間を"
この機を利用する他以外なかった。
こうしてマクロン氏の脇に控える外人を"監視役"を仕立て上げる事に成功。
仕事は文字通りスピード解決。
こうして帰路につくわけだが、例の罰ゲームがまだ残っている。
女装指導だなんて冗談じゃない、小声で零した愚痴は見事に一蹴された。
ところが女装指導が行われることは"二度"となかった。
事件は翌日起きた。
その日のその場にいたD機関には、その光景が鮮明に残っていた。
昼過ぎ、買い物帰りのAは、突如書状を持って現れた憲兵隊に連行された。
目の前に突きつけられた書状は次の通りだった。
[極秘機関ノ情報漏洩ガ発覚
給仕役ノ女ヲ捕ラエラレタシ。]
抵抗も見せずAはあっけなく憲兵隊に連れていかれた。
この一部始終を見ていた小田切や波多野、神永が慌てて外に出ようとすると、
なんと結城中佐自ら止めに入った。
言われた言葉はただ一言。
「放っておけ。」
これっきりだった。
その時偶然その場に居合わせた福本や甘利も、連行される女をポカンとした顔で見送った。
すれ違い様二人にだけ分かる小さな音が聞こえてきた。
[さようなら]
二人は呆然と"音"を聞き取り、無意識のうちに解読していた。
見送ったAの表情は口元だけが覗き、苦渋の色に染まることなく、ニッコリと微笑んでいた。
そう心の底から楽しそうに。
深夜、静かにゆっくりと雪が降り積もった。
声も音も、足跡すらも白くかき消す様に、無情に降り積もった。
昭和十三年、真冬の出来事だった。
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アサノ(プロフ) - masyさん» 返事が遅れてすみません。そんな風に言ってた抱けるだけでとっても嬉しいです。masy様と趣味が合うなんてこちらこそ光栄です笑 (2017年12月27日 1時) (レス) id: 35d7b1e41a (このIDを非表示/違反報告)
masy - ハリーポッターのも読んでます!もうアサノさんの小説が好きすぎて……(笑)とても面白かったです! (2017年12月24日 20時) (レス) id: 065dd9adad (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:アサノ | 作成日時:2017年7月9日 14時