１. とうとう ページ4
陽翔side
夏の夜遅く。
ドンドンッと玄関の戸を強く叩く音がした。
弟と妹はすでに寝ており、今 起きているのは母と俺の２人。
いつもと同じく、寝る前のほんの１５分程の母とのおしゃべりを楽しんでいた。
でも、その瞬間。
突然 家中がシーンと静まり返り、ドンドンッ という音だけが鳴り響いた。
黙りこくる母に、声をかける。
「母さん・・・・・・？どうしたの？
俺が出て来ようか？」
「・・・・・・陽翔っ！
やめて・・・っ・・・・・・。」
「母さん！？」
いきなり泣き崩れる母。
「俺、出て来るよ？」
いつまでも続くその大きな音に、若干イラつきながらも母にそう言う。
「陽翔・・・・・・。」
悲しげな母に疑問を抱きながらも、自らも胸騒ぎがするのを感じる。
なんだろうか。
少し憶えのあるこの感じ。
まあいい。
出てみれば分かることだと言い聞かせ、ガラガラッと引戸を開ける。
そこには、見覚えのない４０歳くらいの人が立っていた。
「なんですか？」
こんな時間に訪ねて来るという常識の無さに、出て来る言葉も少し素っ気なくなってしまう。
.
「川平陽翔さん、おめでとうございます。」
.
『おめでとう』、と言いながら差し出されたそれを見るのは、初めてではなかった。
淡い赤色をしたその紙。
１回目に見たのは父宛ての物で。
２回目は１番上の兄 宛て。
３回目は、２番目の兄 宛てだった。
そして、今 俺の手の中にあるそれの宛名は。
『川平 陽翔 殿』
「・・・赤紙・・・・・・。」
その紙を見た時、１番に思い浮かんだのは‘彼女’の顔だった。
それと同時に母の涙にも合点が行き、とうとう俺にも来て“しまった”のか、という想いでいっぱいになった。
戦争反対、などと言えば「 非国民！」と叫ばれる時代。
「ありがとうございます。」
そうは言ってみるも、俺自身は戦争の意味がわからなかった。
醜い争いのために命をかけるなど、納得がいかない。
「では、失礼します。」
淡々と言いながら帰っていくその人。
なんで俺なんだろう、という思いが止まらなかった。
「母さん、赤紙・・・・・・。」
「陽翔・・・・・・。
ごめんね、守ってやれなくて。
ごめんなさい、母さん何も出来なくて。」
「いや。母さんのせいじゃないから。」
泣き続ける母とは対照的に、俺は不思議な程に冷静だった。
「大丈夫、だから・・・・・・。母さん。」
.
続く (更新停止中)
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左文字 - 素晴らしい作品ですね･･･次の更新を期待しております･･･ (2016年4月1日 23時) (
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作者名：朝陽＊ | 作成日時：2015年8月14日 14時
