第二六訓 ページ26
「あーあ。なんか感情的になったのが馬鹿みたい。…あの人には愛されてなくとも、これだけ皆に愛されてたんだから。私は、幸せだよね」
吹っ切れたようにAは目を擦って笑顔を見せる。
母様、とそれを言い直したのは己なりのけじめなんだろう。
ホッとしたように清光は肩を落とした。
「…きっと私はあの人からの愛が欲しかっただけ。…だから、こんなにも他の皆がくれる愛に気づかなかったんだね」
「大将は鈍感だからなぁ」
「皆と違うこと。…それも、人の中でだって、皆それぞれなのに。そこに、大差はないよね」
刀剣達は押し黙る。
少なからず彼らも、先にAが寿命を迎え、死ぬことは知っていたから。
「…私が死んだ後なんて、私が気にすることないはずなのにね？」
「主…そういうこと、言わないでよ。主が死ぬなんて、考えたくない」
「…ごめん。でもさ、まだずっと先だしさ」
から回った空気の中、Aは困ったように笑うと、立ち上がった。
足がしびれていたのか、少しふらつく。
「言いたいこと言い切ったらなんだかどっと疲れちゃった。部屋に戻るね」
「あいわかった。…ゆっくりおやすみ。俺宛の返事でも考えているといい」
「ばーか！大好きだよ！皆、ね」
にっと笑ったAはパタパタと部屋に向けて駆けていく。
その背中を見ながら、三人はふぅ、とため息をついた。
「愛されてないって、わかってても母さんの心配しちゃうとこがAの悪いとこだよねぇ」
「な。そういうところが甘いっていうんだ。…全く、実母だろうがAを傷つけた奴は許さないぜ？」
「おや、二人とも悪い顔だな。…というか、俺だけ悪役はやめてほしいものよ。本当は全員、主の名など知っている癖に」
「一人は悪役がいないと騙せないだろう？なぁ」
ぞろ、と奥の部屋の襖が開く。
そこには見知った、顔が。
「全く、三日月殿と私で刃を交えさせるなんて考えたのは誰です？」
「それ私です。ほら、二人なら全力でやりあっても怪我などしないだろうと思いまして。個人的に見たかったというのもありますが」
「い、いち兄さすがですぅ…」
「いやぁ…まさかここまでうまく行くとはのぉ」
「元々、Aちゃんの苦しんでる事を知りたかっただけだし。結果だけなら大成功だよね！」
「さて、驚からずや対母様…否、神に身を売った悪魔！出雲守元当主討伐を開始する！」
愛を知った刃物の逆襲。
幸せ、愛、現状を守るためならば、手段など選ばない。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 589人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を見ている人にオススメ
「刀剣乱舞」関連の作品
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
黎奈(プロフ) - はじめてコメントさせていただきます！！すごく面白かったです。完結お疲れ様でした！第四訓で宗三左文字が宗山左文字になっていらっしゃるのでご報告させていただきます。あと、ちょこちょこ報告に来るかもしれません… (2015年10月18日 22時) (
レス) id: 339ceb4b4b (このIDを非表示/違反報告)
華維璃(プロフ) - お疲れ様でした！とても面白かったです！小説の書き方、参考にさせて頂きます<(_ _)> (2015年9月22日 20時) (レス) id: 5dbf713d35 (このIDを非表示/違反報告)
連合(プロフ) - お疲れ様でした！ (2015年7月19日 17時) (レス) id: bbc5de6b90 (このIDを非表示/違反報告)
らい兎(プロフ) - 第三四訓の「突き出ているのは日本の大きな角。」というところもしかして日本→二本でしょうか？面白かったです。 (2015年7月13日 23時) (レス) id: 5d4b050560 (このIDを非表示/違反報告)
零玲飛(れいれと)(プロフ) - お疲れさまでした、面白かったです！宗近のじいちゃんが入手できないのが痛いですね。 (2015年7月10日 19時) (レス) id: 0bd3908221 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：稜 | 作成日時：2015年4月10日 14時
