1 ページ11
◆
ライブハウスに閉じ込められて8日目。
天羽すずは、隣の楽屋に1人で座っていた。
この部屋には3人が寝かされている。
真冬である上、クーラーを効かせているので、ひどく寒い。
しかし寒いのは苦ではないし、彼女の側にいることに意味があった。
「律……」
その手に触れる。
冷たい。
顔に被せていた白いレースのついたハンカチを少しめくろうとして、止めた。
律の表情は穏やかであったが、ろくに手当てもできていない傷口を目にするのは憚られた。
最期の言葉が、頭の中で反芻される。
――みんな、ありがとう。じゃーね！
別れの言葉は皆に宛てたものだった。
最期くらい自分1人を見ていて欲しかった……というのはわがままだろうか。
律はメンバー皆のことが好きで、すずはその中の一員でしかなかったのだろうか。
すず以外が処刑人だったら、同じように優しい言葉をかけたのだろうか。
そんなことをずっと考えてしまう。
もうあれから3日が経つ。
すずの時間は止まったままだ。
「……すず？」
不意に名前を呼ばれ顔をあげると、怪訝な顔をした紅愛がいた。
開けかけたドアの向こうに立っている。
横たわった彼女たちをちらりと見てから、すずの方に目を向けた。
「やっぱりここにいた。寒いでしょう？」
穏やかな口調で問いかける紅愛は、努めて平静を装っているように感じられる。
すずは黙ったまま、再び顔をうつむかせた。
紅愛が自分のために時間を使ってくれたという事実を、少し前のすずなら大いに喜んだはずたが、大切なものを失った心では、とてもそうは思えなかった。
「気持ちはわかるけど、まだゲームは続くのよ。せめて今無事な私達だけでも助かることが、すみれや詩乃……そして律のためにできることじゃないかしら？」
すずはほぼ無意識的に呟いた。
「……さい」
「え？」
「うるさい」
「律と私は幼馴染だったの。律のことは何でも知ってるし、あなた達よりもずっと長い時間一緒にいた。律は私のすべてだった。……だから、律がいないなら――」
紅愛の方を向く。
ぎょっとしたようにこちらを見ていた。
「もう何もかもどうでもいい。皆、勝手に生きて、勝手に死んでしまえばいいわ。あなた達がいなくなったところで、私はひとりでもアイドルを続ける」
しばしの間、沈黙が部屋の中に充満する。
「……そう」
紅愛は静かにそれだけ言うと、ドアをぴしゃりと閉めて出て行ってしまった。
◆
2◆→←Chapter6.Hide and Pray for…
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 35人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
みらーぼーる(プロフ) - 花乃子さん» そうでしたか…💦ありがとうございました🙏 (5月14日 16時) (
レス) id: 86351c9672 (このIDを非表示/違反報告)
花乃子(プロフ) - みらーぼーるさん» 公開していたのですが、恥ずかしいので現在は参加者様のみの閲覧に限定させて頂いてます🙏🏻ごめんなさい💦 (5月14日 16時) (レス) id: b739fbefbf (このIDを非表示/違反報告)
みらーぼーる(プロフ) - コメント失礼します！「絶ステ本編・あとがき」を公開する日にちはいつですか？公開する予定はありますか？🤔 (5月14日 16時) (レス) id: 86351c9672 (このIDを非表示/違反報告)
花乃子(プロフ) - 救世主さん» ありがとうございます✨キャラクターは他の方に作って頂いた子達で、素敵なキャラクターばかりだったので本編執筆が捗りました！ (5月14日 13時) (レス) id: b739fbefbf (このIDを非表示/違反報告)
救世主(プロフ) - 完結おめでとうございます🥳🎉キャラクターがそれぞれ個性的なのが魅力だと思います👍1人1人に裏の面があったり、設定がしっかりしていて飽きずにずっと楽しく読ませていただきました!とっても面白かったです💗🥰 (5月13日 1時) (レス) @page39 id: 0bbfc75c53 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：花乃子 | 作成日時：2023年3月31日 22時
