花笑み Ⅲ (ページ46)

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131.導かれるようにページ46

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帰らなくちゃ。

という焦りだけが頭の中にあった。

それまで一本道だったのに、
突然道が２つにぱっくりと割れている。

片方は歩きやすくて、
舗装された道だったけれど、

もう片方はあぜ道で、
見るからに歩きづらそうだった。

ここに来るまでに、
もう随分たくさんのあぜ道や茨道を進んできたような気がする。

それでも歩いてこれたのは、
隣にいつも仲間たちがいたから。

一緒に躓いて、傷ついて、
一人で進めないときは手を引いてくれた。

だけど、何故か今、
ここには誰も居なくて、
自分が進みだした道を肯定してくれることも、
誘導してくれることもない。

一人では、このあぜ道は歩けない。

俺は分かれ道の真ん中に立って、
いつまでもそこで頭を悩ませていた。

一人は、こんなに心細いんだな、
と思った。

「阿部ちゃん、」

そんな俺を、誰かが呼んだ気がする。

「戻ってきて。」

どこに？

「何処に戻ったら良い？」

気がついたらそれは口に出ていて、
自分を呼ぶ声の主を必死で探した。

「どっちに進んだら良い？」

答えは返ってこない。

返ってこないけれど、
それまで忘れかけていた何かが頭をよぎった。

まだ、伝えられていないことがある。
みんながちゃんと前を向いて笑ってくれるようにしなくちゃ。

佐久間にもらったはずのいちょうの葉っぱを、
読みかけの本に挟んだのに、
俺はその本をなくしてしまった。

探しに行かないと。
伝えに行かないと。

胸の中が温かくなってくる。

そうだ、俺は、
分かれ道の真ん中で、春を待っていた。

突然、舗装されていないあぜ道が
ぱぁっと明るくなったような気がして、
顔を上げると、その道にたくさんの花が咲き乱れていた。

ただの歩きにくいあぜ道なんかじゃなかった。
春を待っていただけだ。

俺はその花の咲き乱れる道へ進む。

花の香り包まれて、
急に空気が温かくなったような気がした。