花笑み Ⅲ (ページ43)

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ab「康二、ありがとうね」

その言葉を聞いて、頬が緩む。
自分の想いがちゃんと伝わっていると感じた。

「ええんやで」

阿部ちゃんの視線がまた泳ぐ。
何かを躊躇っているみたいだった。

sk「阿部ちゃーん！」

佐久間くんが駆け寄ってきて、
阿部ちゃんに抱きついた。

彼はなぜかそれをやんわり拒否したように見えて、

でも、佐久間くんはあまり気にしていない様子で、
阿部ちゃんにしがみついている。

ab「佐久間、動きにくいってば…
　ほら、監督さんが呼んでるよ？
　行ってきなよ」

sk「にゃー、
　わかった～行ってくる！」

佐久間くんの背中を見送ると、
阿部ちゃんは伏し目がちに俺を見た。

ab「…本当は、すごい怖いって言ったら、」

そこまで口にして、
阿部ちゃんは俺の顔を伺うように覗き込む。

思いがけない言葉に、
一瞬心臓が跳ねた。

ab「…ごめん、やっぱりいいや」

自分の動揺が彼に伝わってしまったらしい。

でも、今聞かないといけない気がして、
強引だとは思いつつも、

俺は気がつくと阿部ちゃんの手を取って、
人が少ない場所へ移動していた。

「阿部ちゃん、言ってみ？」

ようやく手を離して向き合うと、
彼の目が潤んでいる。

ab「ごめんね、ちょっと怖くなって」

「おん、」

ab「真ん中に立つのも…
　死ぬのも。
　 …今更だよね、情けない」

「そんなことないで」

ab「…俺、もうすぐ居なくなるのに」

この後、ダンスパートの撮影を控えていた。

ab「そう思ってる自分も嫌い。
　全部歪んで捉える自分が嫌い。

　 …照にはセンターが怖いなんて言えないし、
　ラウールの前でも言えなくてさ。

　本当、情けないね。」

照兄が作ってくれた振り付けが不服なわけじゃなくて、
ただ、自分がいつ消えるかわからないまま、
真ん中に立つ不安と恐怖、

それを口にできない気持ちは
十分すぎるほど分かった。

ぽつり、ぽつり、と
静かにかかえていただろう弱音が、
彼の口からこぼれ落ちてくる。

俺は肯定も否定もせず、
彼の言葉を静かに受け止め続けた。

ab「全部が最後、って思ったら、
　苦しくなっちゃった。

　全部が、怖くなった。

　 …こんなこと無かったのに。
　ごめんね、急に」

阿部ちゃんはそう言うと、
ぎりぎりのところで収まっていた涙を一度だけ拭いた。