花笑み Ⅲ (ページ5)

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「…よし」

もう一度気合を入れ直して課題を広げる。
シャープペンを握ってノートに走らせようとすると、
先端は情けなく引っ込んでしまった。

「あ…」

ペンケースから芯を出してみると、
その中も空っぽ。

勉強しないと、と焦る心を阻害されている気分になって、
どうせ無駄だ、と言われているような気がして
少しだけ苛立った。

ab「…ん…」

眠ってしまっていた阿部ちゃんが、
タイミングよく目を覚まし、
僕の方を見て「ごめん、寝ちゃってた」と言って申し訳無さそうに笑う。

僕がその眠気の理由を知っているなんて、
思ってもいないんだろうな。

ab「あれ…どした？
　わからないところある？」

「ううん、
　シャー芯切れちゃって…

　阿部ちゃん持ってる？」

ab「持ってる持ってる」

阿部ちゃんはそそくさと自分のペンケースから
HBの芯をケースごと手渡してくれた。

「ありがとう！」

ありがたく受け取ってシャープペンに入れている間、
阿部ちゃんは僕の手元を覗き込む。

ab「また難しい問題やってるね」

感心したようにそう言う彼の表情は、
何処か楽しそうだった。

ab「勉強楽しい？」

「うーん、嫌いではない…かな」

ab「好きじゃないんだ？」

「…でも、目標があるから」

そう言って借りていたHBのシャー芯を返しながら、
阿部ちゃんの顔を見ると、
彼はその先を待っているみたいに、
目を輝かせて微笑んでいる。

阿部ちゃんの病気を直したい、

なんて言ったら、
彼はどんな顔をするんだろう。

ab「目標って？」

「…Snow Manのクイズ王かな」

だけど、それを言う勇気はなくて、
適当にそんなことを言って誤魔化した。

ab「なるほどね、
　これからはラウールが
　 Snow Manの偏差値上げてよ」

「これからって…」

彼は嫌味でも皮肉でもなく、
単純に期待を込めてそう言ったんだと思う。

ab「でも、楽しくないんだったら、
　頑張らなくて良いんだよ。

　ラウが好きなこととか、
　楽しいと思えることだけやればいいよ。」

時間を無駄にするな、
と言われている気がした。

でも、そうきっぱり言われても、
勉強を辞める気にはならなかった。

僕は、これがやりたいんだ。
諦められない。
そのための時間は無駄なんて思わない。