花笑み Ⅲ (ページ38)

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強引に照に腕を引かれて、
俺はようやく足を動かすことが出来た。

眠っているみたいに、穏やかな顔をしている。

そうだ、またいつもみたいに眠ってしまっただけ。
きっとそうだ。

周りの音なんて、もう聞こえていなかった。

「…やだなぁ、阿部ちゃん起きてよ。
　撮影中だよ？

　疲れたなら、
　言ってくれればよかったのに。

　ちょっと休憩入れてもらおうね」

的はずれなことを言っていることは、
自分でもわかっていた。

でも、口から適当な言葉が溢れて止まらない。

「阿部ちゃんてば」

ふっかから奪うようにして
阿部ちゃんを抱き寄せる。

反応はない。

手を持ち上げてみても、
すぐにだらりと垂れてしまう。

「…そうだ、さっき何言いかけてたの？」

まだちゃんと聞けていない。

「ねぇ、起きて」

周りが騒がしい。

ようやく無音だった世界から浮上する。

でも、その声も、騒々しさも、
どこか遠くで起きている別の出来事みたいだった。

この空間にいるのは、
自分と阿部ちゃんだけで。

周りの音や声なんて、頭に入ってこない。

「阿部ちゃん、ほら、起きないと」

半開きの口から、季節外れの花弁が落ちた。

鮮やかな、ピンク色の花だった。

「ねぇ、お願い。
　阿部ちゃん、起きて」

そんな俺の願いは届くことはなく、
その後、どんなに彼を揺さぶっても、

彼は目を閉じたままだった。