花笑み Ⅲ (ページ37)

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「次、もうちょっと笑顔で」

そのカメラマンの言葉に、
阿部ちゃんがふわっと笑ったのを見て、

「あ、」

と無意識に声が漏れた。

fk「ん？どうした？」

ふっかに声をかけられるけど、
上手く言葉が出てこない。

舞台上で見たときの、
花が咲いたような笑顔だった。

そう言えばあの日、
舞台上でどんな景色を見ていたのか、
ちゃんと聞いていなかったな。

俺の世界は、
ちゃんと阿部ちゃんにも見えていたのかな。

これが終わったら聞いてみよう。

彼はおもむろに握っていたドライフラワーを持ち上げて、
手をいっぱいに伸ばして天を仰いだ。

その姿も、やっぱり美しい。

無機質な天井しかないはずなのに、
まるで太陽を浴びているかのように、

嬉しそうな優しい表情を浮かべていた。

…それは、その直後だった。

ドライフラワーの花束が、
その伸ばした手から離れて床に落ちる。

阿部ちゃんはまっすぐ両手を天に向かって伸ばしたまま、
しばらく静止していた。

シャッターも切られ続けていたから、

俺は綺麗だな、なんて
それをただ眺めていた。

バタン、

という音を、遠くで聞いた。

…いや、俺はそれを見ていた。

その光景が、今でも頭によぎるから。

「…え」

阿部ちゃんが、文字通り卒倒した。

「…阿部ちゃん？」

突然意識が途切れたような、
異常な倒れ方だった。

身体が動かない。

駆け寄りたいのに、動かない。

メンバーが弾かれたように動き出し、
横を通り抜けていく、
その風だけを感じていた。

iw「おい佐久間！！
　何してんだよ！！！」

俺はまた、彼が初めて倒れたときみたいに、
動くことが出来ない。