花笑み Ⅲ (ページ31)

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ラウールがしばらく俯いて手を弄っていたと思うと、
静かに顔を上げて、
ぽつりぽつりと話し始めた。

ru「…阿部ちゃんが言わないから、
　いいかなって思ってたけど」

最年少の言葉に、全員が耳を傾ける。

全員で覗き込んでいたはずのダンスの映像は止まっていた。

ru「花に、栄養も体力も奪われるわけだから、
　普通に過ごしてても
　僕たちの何倍も疲れやすいはず。

　こうやって踊ったり動いてるのが、
　多分、一番しんどいんだと思う。」

病気のせいだと言わないのは、
俺たちに余計な心配や気遣いをさせないためだろう。

ラウールは病気のことを
その賢い頭でよく調べていて、
俺たちにそれを丁寧に説明してくれた。

そう言われれば、全てが腑に落ちる。

でも、本当は理論なんてどうでもよくて。

どうしようもない悔しさみたいな感情が渦巻いて、
それを言ってくれない阿部ちゃんにも、
少しだけ腹が立つ。

さらにそれを、
彼が眠っている時に知ってしまったのとで、
余計に後味が悪かった。

「…ったく」

無意識に声が漏れて、
俺は慌てて口を両手で覆った。

メンバーは半笑いで俺を見て、
きまりが悪くなった俺は止まっていた動画を勝手に再生する。

俺たちはその後、
動画を撮りながら振りを揃える作業を黙々と続けた。

自然と、阿部ちゃんの癖によせて振りを固めていく。

結局阿部ちゃんは、
俺たちの練習が終わるまで、
目を覚ますことはなかった。

今日はこれくらいにしよう、
と照が時間を切ると、

腹が立っていた気持ちも幾分落ち着いていて、
俺は静かに眠ってる阿部ちゃんの元へ向かった。

「阿部ちゃん」

声をかけても、彼は寝息を立てたまま動かない。

汗がじんわりと滲んでいた。
頬に手を添えると、じんわりと熱い。

…本当にこの弟は…

一周回って、もう怒る気にはならないけれど、
このままにしておくわけにも行かない。

他のメンバーもまだ残って練習をしていて、
そこまで急ぐ必要は無さそうだったので、

俺はそのまま起こさないように一旦離れて、
自分の荷物と、阿部ちゃんの荷物を軽くまとめた。

　