花笑み Ⅲ (ページ25)

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撮影は思ったよりも長引いて、
俺が一番最後のソロショットの撮影だったので、

部屋に戻ってくると、
他のメンバーは帰り支度をすっかり整え終わっていた。

nb「目黒おつかれ」

しょっぴーがそう言って肩をとんとんと叩く。

阿部ちゃんは控室の隅で、
今度はしっかり横になって眠っていた。

佐久間くんと岩本くんが、
その様子を写真に収めながら遊んでいて、

髪をつつかれて、阿部ちゃんはゆっくり目を開いた。

iw「ほら、佐久間やりすぎなんだよ」

岩本くんに怒られて、
佐久間くんは俺の姿を見つけると、

sk「めめも戻ってきたし、
　タイミングはいいでしょ！！」

と言って、にかっと笑った。

ab「…めめ？」

佐久間くんの言葉で、阿部ちゃんはようやく俺の姿を捉えたらしい。
ずるずると起き上がって、
俺に向かって片手を上げて微笑んだ。

「おまたせ。
　すぐ準備するから待ってて」

sk「いいなぁ、めめ、
　俺も連れてってよう」

佐久間くんに泣きつかれたけど、
「二人で予約しちゃってるんで」と断る。

半分本音、もう半分は、
茶化しているだけだろう。

「…ケホ」

いやな咳の音だった。

その音に、佐久間くんと顔を見合わせて、
自然と会話は中断する。

阿部ちゃんはみんなの視線に気づいて、
「大丈夫」と言って笑ってみせるけど、

その咳の音が頭から離れない。

独特な、乾燥したような、
何かが詰まっているみたいな、変な咳。

俺は無意識に耳を澄ませながら、
帰り支度を整えていく。

佐久間くんも気が気じゃないみたいだった。

「…っ…ゲホっ」

今度は何度か咳き込んで、
俺はたまらず阿部ちゃんの側に駆け寄った。

彼は俯いてそれを拒否するみたいに押し返すけど、
その力は悲しいほどに弱々しい。

「我慢しなくていいから」

そう声をかけてしまえば、
やっぱり我慢していたのか、
蒸せたように激しく咳き込み始めた。

それにあわせて花弁が少しずつ床に落ちていく。

佐久間くんが水を持ってきてくれて、
俺の右後ろに遠慮がちに座った。

「阿部ちゃん、飲めそう？」

ずっと苦しそうに咳き込んでいる背中を撫でながら声をかけると、
彼は辛そうに首を横に振るだけだ。