花笑み Ⅲ (ページ26)

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ab「…ごめん、吐く」

束の間落ち着いたかと思うと、
彼はそう言って、同時に背中が波打った。

咄嗟にその不安定な身体を支えると、
体重がこちらに傾いて、
色とりどりの花びらが一気に溢れ出した。

苦しそうな呼吸が耳に入ってきて、
俺は背中を撫でる手に力を込める。

「大丈夫、大丈夫」

彼に向けた言葉のはずが、
自分に帰ってくる感じがした。

言いながら、自分にも言い聞かせている。

こうなる度に、身体が震えるほど怖くなる。
情けないほど、怖くてたまらない。

苦しみをわかってあげることも、
取り除いてやることもできない。

どうしてやることもできないのだ。

一瞬花吐きが収まったのを見計らって、
水と薬を飲ませる。

sk「めめ、もうちょっとそのまま支えてあげてて。
　今寝かせたら詰まらせちゃうから」

彼を離すつもりなんて、毛頭なかった。

「もちろんです」

溢れる花弁の間から、
必死に空気を取り込もうとする彼の身体が何度も揺れて、波打って、
落ち着かない手が、彼自身の洋服の胸元にシワを作っていく。

幾分骨っぽくなったその身体が、
さらに強張って固くなるのを、
少しでも楽になるように、
安心させるように撫でているつもりなのに、

俺の身体も固くなって、
手元はぎこちなく、さらに震えが止まらない。

「…食事は今度にしましょ」

彼だけに聞こえるように言うと、
まだ不規則な呼吸を繰り返す彼は、
首を横に大きく振った。

その拍子にまた咳き込んで、花びらが舞う。

「また行けるって」

ab「…大丈夫、だから」

意地になっているように見えた。

阿部ちゃんは俺の身体を押すようにして起き上がると、
まだ肩で呼吸をするのを無理やり隠して、
「ね？」と、微笑んで見せる。

「大丈夫なら、今度でも良いよね」

そう言うと、阿部ちゃんは観念したように笑って、

ab「めめは本当、そういうところは賢いよね」

と言うと、小さくため息をついた。