硝子玉に口付けⅡ (ページ9)

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｢ここにいる皆にはもう説明がされていると思うが……もう一度軽くだが確認しよう｣

A、とダリス･ザックレーと名乗った一番偉い人は一度は私に目を向けた。名前を何処かで聞いたような気もする。だけど、思い出そうとしてもどうしてかその記憶は朧気で霞んでいるのだった。

｢君の先祖たちが、王政府と調査兵団により特異な体質を得た。圧倒的な回復力と凄まじい生命力｣
｢奪われたものの方が多かったですけどね｣
｢そうか、そうだったな。が、それは一先ず置いておいて欲しい。私が聞きたいのは、君が持つ特性だ｣
｢巨人に襲われない｣
｢そうだ……目撃者はハンジ分隊長、確かだね?｣

は、と敬礼をするハンジさん。思いの外声が強張っている。あのふざけた調子ではなくて、大真面目な顔しているから驚いた。あの日、もしもハンジさんに助けられなかったら、今頃どうなっているのだろうか。巨人の血肉になっているだろうか。それとも。

｢うむ。何故襲われなかったか、原因はやはり彼女に流れる血であると確定できるだろう。A、どうだ。君は何か知っているか｣
｢さあ。分かりかねません。巨人の気紛れではないでしょうか｣

こんなにも分かりきっていることを誤魔化すのは逆に怪しいよなあ、と思う。けれど、少しでもこの血の存在感が薄れるように努めたかった。が、

｢……安心しなさい。君の血をどうこうするつもりは、私にはない｣

は、として顔を上げた。じ、とこちらを見つめる彼。分かっているのか。私が恐れているものを。この血に利用価値があることが、私は一番怖い。それを、この人は知っている。
しかし、気付いてしまう。彼が言ったのは私は、であって。だから、ほら、

｢総統!!何を仰いますか!?この危険分子を放っておくと捉えられますぞ!!｣

イヴリア卿、と背後から誰かが呟いたのが聞こえた。貴族も、いるのか。

｢イヴリア卿、静粛に｣
｢しかし……!!｣

燻ったままのイヴリア卿、という彼を無視して総統は続ける。

｢君は、巨人との意思の疎通は可能かね?｣
｢さあ｣
｢では、質問を変えよう。君は、人類の味方か?｣

喉がからからだった。声がへばりついていた。答えたくなかった。味方か、否か。もし、巨人の味方であると口走れば速攻で処分が決まるのだろうか。だとしたら、そう答えるのが妥当か。でも、何処かで躊躇う自分がいた。どうしてか分からないけれど。抵抗なく人類の敵であると、言えばいいものを。でも、出来ないのだ。

｢わ、私は｣