硝子玉に口付けⅡ (ページ5)

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憲兵団の馬車。エルヴィン団長を除く５人、A捕獲班で向き合って座ってシーナまで移動していた。重々しい空気の中、ハンジ分隊長が口を開いた。

「こうなったのはリヴァイのせいとも言えるんだけど」

じろり、と右斜め前の兵士長を睨みつける分隊長。やめてください。死にたいんですか。生き急ぐのはいい加減にしてくださいこの野郎。野郎じゃないけど。何度も口にしてきているこの言葉だけれど、今は憚られた。何故なら？それは当然、我らが人類最強のリヴァイ兵士長殿が私モブリット・バーナーの隣にお座りになられているからである。こう言っては兵士長の脚が短いと捉えてしまわれるかもしれないが、断じてそんなことではなく、たまたま馬車の向かい合う席の間の幅が広く、兵士長の美しき蹴りをするには少しばかり、本当に少し、いや、本当に少しだけ距離が広いので、いざ兵士長がご自慢の蹴りを披露なさろうとしてもハンジ分隊長には届かない為私に蹴りつけてくる可能性が急激に上がってしまうのである。何故私の隣に兵士長が座っているかといえば、ミケ分隊長とパートナーのナナバ隊長が隣に座っているからである。ハンジ分隊長はナナバ隊長の隣だ。ということで必然的に、私の隣は兵士長なのである。くそう。これだから恋人同士は。羨ましい。どうか幸せになって頂きたい。

「…………」

リヴァイ兵士長は黙ったままだ。図星なのかもしれない。
確かに、あの時兵長が立体機動をしなければ、もう少し事は小さく収まったのだ。しかも、兵士長というだけあって中々に目立つ人だ。世間が放っておくはずがなかった。日中、賑わう市場にて調査兵団の希望の翼、人類最強が立体機動を駆使して少女(実は22歳、私と同い年だった)を捕らえたと。あの後どんなに大変だったか‼偽装工作証拠隠滅。変な噂が立たないようにどれだけ頭を使ったか!であるというのにこの始末。知ってた。世界は残酷だ。
ふとしたところから漏れたのだろう。しかも、Aの特徴は分かりやすいものだったのだ。あああ必死こいて街の人に口封じしたのに。必死で憲兵を誤魔化したのに。何てことはしてくれたんだ兵士長‼とは言えず。

「これでAが王政の方に行ったらどうしてくれるんだ」
「ふん、エルヴィンの野郎がどうにかする」
「また貴方は……。でも、そんな気がするよ」

私もそんな気がします。
もう少しでシーナに着く。それまで、分隊長がまた余計なことを言わず、兵士長の蹴りがこちらに来ないことを願った。