硝子玉に口付けⅡ (ページ26)

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乾いた風が頬を撫でる。愛馬の手網を握り締め、ナナバはちらりと斜め前の背中を見やった。深緑の揃いのマントから覗く腰は相変わらず細く、不釣り合いで無骨な立体機動装置が太いベルトによって括りつけられている。風に揺られくすんだ金髪が舞った。
遂に、この日が来てしまっのだ。
ウォール·マリアの放棄から約一ヶ月が経った今日。今からA·オーカー、沈黙者たちの初めての壁外実験が行われる。直接巨人と会ってもらうのだ。
ナナバは先日の事を思い出す。Aの存在が全兵士達に伝達された時だ。まだ確証は持てておらず、過去の我々が犯した事を事細やかに話す訳にもいかず、当たり障りのない程度に収めた沈黙者たちの説明。思ったよりもすんなりと受け入れられた事に少なからず幹部組は驚いていた。幾ら兵士と言えども、血気盛んな年頃の者だって何人もいる。あの悲劇の日を目の当たりにした兵士も少なくない。その為、巨人に襲われないという特性を持つAの事を伝えてしまえば、今後の指揮に支障が出ることは覚悟の上だった。元々、調査兵団は何かとはぐれ者が集っており、変人集団とまで囁かれる始末。その為、沈黙者たちという聞き覚えのない種族であると聞いても多少疑惑の声が上がりはしたが懸念していた混乱はさほど起きなかった。まあ、実感が無さすぎるというのもあるかもしれない。エルヴィンの横に立たされた、涼しい顔したAは訓練のお陰か多少筋肉が付いていたがひ弱な体躯をしており、幼げな顔立ちは相変わらずだった。敵意を向ける相手という認識には至らなかったのかもしれない。そして、これが最大の理由だろう、人類最強の兵士長、リヴァイが直々で監視を行い問題があれば即処分というお触書があったのだ。また、基本は幹部棟で過ごす為、兵士達にAの姿が晒されたのはあの日だけだ。
今日も、Aの周囲にいる人材は変わらない。市民達はまだ何も知らない(ただ次回に向けて経路確認の為の簡素な短期調査だと伝えている。これ以上犠牲を増やすのかと批判の声が挙がったが、そこはエルヴィンに何とかして貰うつもりだ)極秘の実験である為少数精鋭だ。リヴァイ、ハンジ、モブリット、ミケ、そしてナナバの5人。A捕獲班改めてA育成班、またA監視責任班とも言う。
そんな5人に囲まれるAは至ったいつも通りの澄まし顔。エルヴィンも舌を巻く肝の据わりっぷりは頼もしくあるが、これから巨人と会うというのにこの落ち着きは異様であった。

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