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騒ぐハンジの後ろからモブリットとAが並んで歩くこの光景も、もはや恒例になっていた。モブリットの位置がリヴァイやミケになる時もある。背丈の差があるので、当然歩幅もだいぶ違う。普段の癖でせかせかと歩くモブリットに付いていくAは少し大変そうだ。擬音で表すとぱたぱた、だろうか。小走りになっているのを見ると微笑ましくなる。が、彼女は我々にとって善か悪かまだ分からない。その幼い顔の下に何が潜んでいるのかまだ計り知れない。先日の発言の件もある。話を聞く限り、Aは極めて優秀で、兵団に溶け込みつつあった(まだ幹部棟の者しか知らないが )。恐ろしく素直に話を聞き、言われたことは文句一つ言わずに従う。至って模範的な態度だ。礼儀やマナーもきちんとしていて、挨拶から食事の仕方までよく出来ていた。一般教養は受けていたと言うから、特別な事でないのかもしれない。しかし、時折沈黙者たちとしての顔を見せることがある。ふとした、何気ない瞬間に彼女に目を向けると大抵は曖昧な笑みを浮かべているのだが、ある一点を集中して見つめていることがある。焦点の合わない目は何処を見ているのか分からない。中央の深い青に呑み込まれそうになるのか何度目か。絶妙な色彩はエルヴィンの心拍を乱れさせた。
｢いい感じに、人口が保たれている。そうだ｣
左後ろ、少し低い位置から唸るような声。
｢ああ。聞いたよ｣
風が頬を撫でていく。冷たいそれはぶるりと背筋を震えさせた。思い出すのはあの教室。大好きな父の声。周りに座るのは級友たち。風を受けたカーテンが膨らんでいた。あの時、自分は何も知らなかった。知らなかったからこそ無邪気で無垢でいられたのだろう。恐怖と驚愕に満ちた父の顔は今でも脳裏に貼り付いている。Aはあの時の自分だ。真っ直ぐで汚れを知らない。聡明である故に、その真っ直ぐさは痛々しくも感じる。
自然の唇に乗せたのはあの頃からずっと抱き続けている疑問。もしかしたら、ヘレンと共にいたらこの疑問も解消されるかもしれない。
｢どうして、壁の外に人間がいないと、分かるのか｣
Aの視線の先を追ってみる。窓の向こう。一羽の烏が、枝から飛び立った。
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作者名：英 | 作成日時：2017年10月5日 21時
