80. 君だけだったんだ ページ36
.
「ごめんなさい……」
『A…？』
「あの頃からずっと甘えっぱなしで、ずっと迷惑ばっかりかけて…」
最悪な婚約者だよね。
そんなふうにAの泣きそうな声が、腕の中で震えてる。
『……正直に言っていい？』
「うん…」
『Aを酷い目に合わせた奴らに、腹が立って仕方ないのに……Aと一緒にいられることが嬉しい』
そう。一緒に、いられるだけでいいんだ。
だから自分のことを最悪だなんて、言わないで…？
そう思っていると、Aが僕の腕をほどいた。
「私だって…、同じだよ。家族が決めた相手じゃないって、思ってた」
『A…』
「天馬くんは、私の…初恋のひと。昔から大好きで、ずっとずっと変わることはない」
僕をまっすぐに見つめる瞳が、こんなにも愛おしい。
でも僕の前ではAはいつも、泣きそうな顔ばかりで…
「そう思ってた……あの日が来るまでは、」
そんなふうにさせたのは、Aのせいじゃないのに。
どうしたらまた、あの頃のように笑ってくれる…？
『Aの本当のご両親のことなら、僕は…』
「わかってる、天馬くんは受けとめてくれるって。でもね……もう、私は昔の私じゃないの」
ずっとずっと周りに自分を偽って、苦しんでいたこと。
それでも笑って、平気なフリをしていたこと。
僕と過ごすたび、僕からプレゼントをもらうたび…
本当はここにいる人間なんかじゃないと、ひとり自分を責めていたこと。
……なんにも、僕は知らなかった。
けど、
「本当はもっと天馬くんのこと知りたい。けど、天馬くんに踏み込むのが怖い……何もしてあげられないのがつら、…っ」
『何もしてないなんて、言わないで…』
今にもまた、僕から離れてしまいそうなAを抱きしめる。
僕はAの苦しみに、気づけなかった。
けど、Aはそんな僕のそばにずっといてくれた。
『……Aだけだった、僕のそばにいてくれたのは』
母さんが死んだ日から、今までずっと。
あの日、目を閉じた母さんの前で立ち尽くす僕の手を、Aはそっと握ってくれた。
僕はAがいたから、ここにいるんだよ。
.
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 626人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を見ている人にオススメ
「銀魂」関連の作品
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
I(プロフ) - 美紀さん» 美紀さん、ありがとうございます！！！…そんなそんなっ、読んでくださるだけでも有難いのにタメ語でお話するなんて恐れ多いです〜…((+_+)) (2018年5月31日 1時) (
レス) id: 408ad8cdff (このIDを非表示/違反報告)
美紀 - 移行おめでと(^^♪作者さんタメでいいよ (2018年5月30日 19時) (レス) id: 39e38305d9 (このIDを非表示/違反報告)
I(プロフ) - 由良さん» 由良さん、お読みいただきありがとうございます！！たったいま更新したので、ぜひお楽しみください(*^-^*) (2018年5月29日 21時) (レス) id: 408ad8cdff (このIDを非表示/違反報告)
由良 - 更新楽しみにしてまーす！ (2018年5月29日 16時) (レス) id: 3c3c648279 (このIDを非表示/違反報告)
I(プロフ) - 蓮さん» いえいえっ、蓮さんの後押しがなければ書くことができなかった作品なので、蓮さんに読んでもらえて本当にうれしいですっ！！ たったいま更新したので、ニヤニヤしながら(できるかしら笑)お読みくださいっ☆ (2018年5月26日 17時) (レス) id: 020c5bbf85 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：I
| 作成日時：2018年5月22日 18時
