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私がこのマンションに引っ越してきて、早いものでもう半年ほどの月日が過ぎていた。
引っ越してきた当初はまだ桜が咲く季節だったのに、今は夏も通り過ぎて涼しさが目立ち秋が訪れようとしている。
この半年で新しい生活にもだいぶ慣れた。謎の隣人(ご夫婦の方ではなく)は実は最初に挨拶した黒髪の彼だけでないことは、ここ最近わかったことだ。
隣の部屋には普通に人が暮らしているわけではなく、何日かに一度人が出入りしていて多い時は4人で集まっているらしい。
壁が薄いというわけではないので会話そのものが聞こえてくることはないが物音や人の話し声がほんのり聞こえてくる程度で気になったこともない。
むしろ何故4人と分かったのかといえば、コンビニの帰りに偶然玄関に入ろうとしている時に、お隣の玄関から前に挨拶をした黒髪の人を含めた4人の男の人がゾロゾロと出てきたからである。
黒髪の人と私がお互い「あ」と目を合わせれば、他3人も「あ」という顔をして各々「こんばんは〜」「どうも」なんて軽く会釈をしてくれたからだ。
…そういえば、その4人の中でも1番背が高かった男の人、ほかの3人と比べて随分長い時間目があった気がする。私の顔に何かついていただろうか？なんかついてたとしたら恥ずかしいな…
あまりにもあっさりと挨拶をしてすれ違ってしまったけれど、都会ではこれが普通なんだろう。
たまたま逆隣りのご夫婦が良くしてくれただけだ。実はそのご夫婦も3ヶ月ほど前に「息子夫婦と一緒に暮らすことになった」と言って引っ越してしまった。
逆に言えば私の隣室は空き家とたまにしか人の出入りの無い部屋なので気楽と言えば気楽なのかもしれない。
新しい生活にもだいぶ慣れ、余裕も生まれたこともあってか縁あって恋人もできた。学生の頃のように時間に余裕があるわけでは無いのでそう頻繁に会うことはできないが、週に一度はデートをしているし生活も仕事も恋も順調に行っている。
順調な社会人生活と言えなくもないだろう。
「やばい！時間！そろそろ出ないと遅刻だ！」
朝の準備をバタバタと済ませ、誰もいない部屋に「いってきます！」と声をかけながら私は今日も仕事へと向かった。
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作者名：なちこ | 作成日時：2021年3月2日 4時
