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「これ、なんだよ」
彼の指差す先には、洗った食器を水切りするためのかご、その中に綺麗に並んだ5枚のカレー皿。
「あ、ああ、これね、昨日カレー作りすぎちゃって…ちょうどお隣さんが夕飯まだみたいだったからご馳走したの」
「…………」
状況を説明すればするほど、彼の機嫌は降下していくようだった。何も言葉を発し無くともその表情は怒りを隠そうともしていなかった。
確かに、自分の預かり知らぬところで自身の恋人が異性を家に上げていたら嫌かもしれない。1対1じゃなければいいかと軽率に考えてしまった私の落ち度だ。
私が彼の立場で、私の知らないところで女の子を何人も家にあげていたら、やっぱり嫌な気持ちになる。
これは、私が完全に悪い。
「ご、ごめんなさーーーー
ーパンッ
ごめんなさい、と言い終わる前に私の耳に届いたのは乾いた音だった。少し遅れて左の頬がじんじんと痛みだす。
何、が、起こったの?
彼に叩かれたのだと頭が理解するまでに少なくとも30秒以上かかったと思う。
「なんでそんなことするんだよ」
混乱している私とは裏腹に、彼は更に怒りを増し、私の肩をガッと掴んで凄んでみせた。
「なあ!!何でそういうことするわけ!?」
「ま、…っ待って!い、痛い…!」
掴まれた肩が、叩かれた頬が痛い。けれど今回悪いのは私だ。
「ごめん、男の人とか、嫌だったよね…もうしないようにする」
「そこじゃない。俺の許可なくそもそも他人を家にあげてんじゃねえよ」
そう言うやいなや「今日は帰るわ」と、彼は私の方をちらりとも見もせず家を出ていった。
心臓がバクバクと音を立てて、私は玄関の閉まる音を聞いてようやく息ができたかのように大きなため息をついた。
腰が抜けたように、その場にへたりと座り込んでしまう。
待って待って、どういうこと?男の人を家に上げたから怒ったんじゃないの?そこじゃないって何?男でも女でも関係なく駄目ってこと?なんで…?
いくら考えても疑問は晴れず、ついさっきまで見ていた彼とは別人のようになって怒っていた彼の姿を思い出して、ぶるりと一つ身震いをした。
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作者名:なちこ | 作成日時:2021年3月2日 4時