〔ｵﾘｼﾞﾅﾙ〕王女と異国の朱い月《 Ⅰ 》 (ページ5)

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Ⅴ. ページ5

『トト、あのね..』

大きく息を吸い、

『私、あなたのことが...』

口を動かそうとした時だった。

｢ｷｬｰ!!!!｣

さっきまで楽しそうな声が響いていた街の方から、

悲鳴と鳴き声と、物が壊される鈍い音が聞こえてきた。

『ｯなに?!』

トトと私は、反射的にその方角を向く。

｢ベクトル王国の軍が...暴れてる..｣

目の良いトトは、力が抜けたような声で遠くを見詰め、呟いた。

ここ、数十年はベクトル王国からの襲撃は来ることはなかった。

平和な日常が続けば続いたほど、突然来た非常事態には対応に遅れる一方で、

街中は大パニック。

『ｯ...行ってくる』

｢行くって...?!どこに行く気だよ!!｣

街の方へと走り出そうとしたモーナの腕を

トトは動きを止めるように掴んだ。

『どこって...決まってるでしょ?!』

『ベクトル軍を潰しによ!!』

｢ダメだ!!お前は城に逃げるんだ!!｣

次期国王の許嫁の為、勝手に動けないからなのか、トトの言葉に力がこもる。

『どうして?!私も王家の1人なのよ?!』

『第二王女が国民を見捨てろってこと?!』

｢第二王女だからだよ!!｣

いつもは大声を出さないトトが、真っ直ぐに私を見詰めながら言うものだから、

驚いて、目を丸くしてしまう。

｢お前は女の子なんだよ...?モーナ..｣

今にも泣きそうな目をするトトは、私の両肩を掴み、顔をのぞき込んでくる。

｢ベクトル軍は女をさらうのが目的だ...。女のモーナを行かせる理由がどこにある..?｣

｢モーナに何かあったら..俺...｣

心配をしてくれてる。

凄く。凄く。

心配をしてくれてる。

『バカね...』

多分、ここで私を行かせ、

私に何かあれば

責任感の強いトトのことだから、自分を責めてしまうんだろう。

私は、小刻みに震えるトトの頬を

そっと両手で包んだ。

『これは、私が選んだ運命。』