動き出した歯車 ページ3
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「それでは、今日は夢について描いてもらいます」
パンっと両手を合わせ音を出せば、きらきらとした子供達の視線が集まる。
「10年後でも20年後でも、明日でも今日の放課後でもいい。何か達成させたい目標を絵に描いてみましょう」
暖かい日差しが差す教室。
楽しそうな声はこの空間を埋め尽くす。
一直線に紙に向かう子もいれば、悩んで悩んで中々手をつけられない子。お喋りに夢中になってしまう子も、暖かさから睡魔に負けている子まで。
みんなの様子を見回り歩けば、一人の生徒に呼び止められた。
自信満々に手渡してくるのは、黒板らしきものの前で複数の人間に話しかける女性の絵。
「私の夢はね朝日奈先生みたいな先生になること!」
「そうなの?すっごく嬉しいわ」
純粋な瞳は昔の私を見ているよう。
先生もこんな気持ちだったのかと何だか二重に心が温まる。
「先生はどうして寺子屋の先生をしようと思ったの?」
今度は近くにいた他の生徒の質問が飛んでくる。
私の回答を待つ子供達と目線を合わせる為姿勢を低くし微笑む。
「私も通っていた寺子屋の先生に憧れて目指したの」
此処は私の夢だった寺子屋。
松下村塾より随分小さいけど、3年目でやっと教え子は10人を上回るようになった。
事情を抱えている子が多いけれど学は等しく与えられなければならない。いつかきっと、此処での経験がこの子達を助けるように...なんて松陽先生が聞いたら笑うだろうか。
すっかりボロボロになってしまった当時の教科書。
撫でるように触れればほのかに温かさを保っていた。
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仰ぐ空は茜色。
最近は何事も上手くいくようになり、気分も浮きっぱなしだ。
その浮かれた気持ちが、運命の歯車を回すとは知らずに。
明日は久しぶりにみんなで散歩に行こうかな。
それよりも何とか無駄な経費を削って各家庭の学費負担を減らさなければ。
文房具の入った風呂敷を振りながら軽快に歩き、その角を通過しようとした時だった。
「こんの天パぁああ!」
衝撃は私の体を押す。
一瞬の出来事で咄嗟についた手首からは鈍痛が走るけど、それよりも恐ろしい光景が私を釘付けにする。
傍に転がる洞爺湖と刻まれた木刀。
目の前で同じように転がる侍は見覚えのありすぎる銀髪天然パーマで。
「ッてーな...姉ちゃん大丈夫か?」
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もち明太子 - 面白かったです!!!!続き下さい (2022年5月7日 12時) (レス) id: 5a52c0f3ec (このIDを非表示/違反報告)
Leo(プロフ) - 今までで1番面白くて、引き込まれた作品です。何度読んでも飽きなくて、この作品を楽しみに生活していたりします。先がとても気になりますが、無理せず頑張ってください! (2022年4月20日 23時) (レス) id: e098a97811 (このIDを非表示/違反報告)
文之 - やっべスッゲー面白いです。探し求めてた君みたいな人です。更新待ってます。 (2022年3月28日 20時) (レス) id: a1eefd9b06 (このIDを非表示/違反報告)
RIO - あ゛あ゛あ゛ーーっっ!!銀さんがぁ、イケメンすぎるっ(´Д⊂ヽ続きめっちゃ気になります!! (2022年3月27日 0時) (レス) @page24 id: 759836d8d0 (このIDを非表示/違反報告)
ドラゴン(プロフ) - すごくおもしろい!更新待ってます! (2021年5月18日 10時) (レス) id: cfbce6a52c (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:□白澤□ | 作成日時:2021年1月22日 1時