弐拾伍. ページ25
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「 最後の一籠かな？ 」
門の近くに置いた酒瓶の入る籠を目指し中庭を歩く。
月が覗く夜風には、広間から聞こえる騒がしい声が乗る。
ふと、視線を横に送れば、
静かな灯りが燈る道場。
そちらへと踏みしめる砂利が心地よく鳴り、段々とはっきりとしてくる素振りをする人の影。
その人を捉えると同時に、進む足も速くなるのがわかった。
「 こ、こんばんは 」
「 お酒を届けに来たんです。....あの、素振り、近くでも見てもいいですか？ 」
ぱちりと目が合い、用意のしていない言葉が詰まり出る。
その疑問を持つ瞳に耐えられず沈黙を破るように話し続ければ、短く了承の言葉が聞こえ、道場へと足を踏み入れた。
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小さな呼吸と、竹刀が空気を裂く音。二つの音が静寂にあるだけで。
きっちりとした正座を整え、ただひたすらに素振り姿を見詰めてどれ程が経っただろう。
礼を終え、汗を拭くその人に、先程までの違和感を打ち明けた。
｢ ...もしかして怪我されてますか？ ｣
あからさまに視線を外す仕草。
武州の人間はわかやすい。
｢ だめですよ！私応急処置程度のものなら常備してるので見せてください ｣
「 ...いらねぇよ ｣
「 土方さん 」
一直線に見つめて離さない私に観念したのか、小さく舌を打ち、一定の距離を空け座る。
不器用に差し出された腕を見れば、まだ日の浅い傷がそこにあった。
虫の声。風鈴の音。
遠くの繁華街の明かりとは対象に、ここはとても静か。
月明りを頼りに素早く包帯を巻きながら口を開いた。
「 まったく。私を欺こうだなんて百年早いってやつですよ 」
「 随分と言うようになったじゃねぇか 」
「 当たり前です。小さい頃からずっと貴方だけを見てきたんですから、素振りの違和感くらい朝飯前... 」
とんとん拍子に進む会話に流され、つい口を滑らせたことにじわじわと恥ずかしさが昇る。
「 えっと、侍として..いや、その...男性としてでもあるんですけど... 」
取り繕えば取り繕うほど、襤褸が出てしまう。
もう施してしまった包帯を見詰めるだけだった視線は、
「 それは勘違いだ 」
しっかりとした目線と言葉が貫いた。
「 お前はまだ武州しか、俺達しか知らないからそう勘違いしているだけだ。」
頭が真っ白になったように言葉が出てこない。
それは違うと言い返したいのに。
揺れる月明りの中、ただ、遠ざかる背を見詰めるだけで精一杯で。
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千鶴 - 好みの夢主でした。更新楽しみにしてます！ (2021年1月23日 20時) (
レス) id: 20d4515acd (このIDを非表示/違反報告)
光華(プロフ) - スマホを変えて、垢が変わり､３回目｡いつ読んでも最高です！応援してます！ (2021年1月23日 9時) (レス) id: a571740452 (このIDを非表示/違反報告)
光華(プロフ) - 前のコメントから一年ちょい｡ログアウトしてしまい大発狂｡漸く見つけました此の作品！！更新頑張って下さい！！！応援してます！！！ (2020年8月23日 20時) (レス) id: e4678e2dff (このIDを非表示/違反報告)
も も(プロフ) - この作品は更新ないですか？楽しみにしてます！！ (2020年8月17日 3時) (レス) id: 32f8d7a304 (このIDを非表示/違反報告)
サクラ(プロフ) - トシがかっこよすぎます！！！めっちや面白いです！！ (2020年3月11日 14時) (レス) id: 319352fe0b (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：□白澤□ | 作成日時：2019年4月3日 1時
