陸. ページ6
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「 近藤さん、黒だ 」
屯所を吹き抜ける夜風。
煙草の煙を吹かせれば、静かに頷く近藤さんが目に入る。
「 黒も黒、真っ黒でさァ。今回の件以外にも面白いほど事件のニオいがしましてねィ。まどろっこしいことは抜きに、あそこを一発で叩きましょーや 」
「 次は遊郭に潜る。近藤さん、あんたにも手伝って欲しい 」
「 山崎、経路は確保できてるな 」
煽る総悟を制し、山崎を見ればしっかりと頷き
警備の薄い裏口経路の地図を受け取る。
「 失踪者が見つかれば話ははやいが、桃源郷の目玉だ。ヘマを踏むようなことはしないだろう」
「 しかしどう潜入するんだ? 幕臣の名を借りるとしても限度がありすぎる 」
「 巨大で黒い遊郭だ。雇い人が足りないらしい 」
腕組をし聞く近藤さんに話を続ければ、今度はぴしりと正座をする山崎が口を開いた。
「 桃源郷は天人達の経営する店が多く、遊郭の楼主も天人ですが、そこの太夫が遊女が怖がるから出てくるなと天人楼主を引っ込めてるらしいです。雇い人も若い衆も浪士や市民あがりですし、怪しまれることはないでしょう 」
「 随分と気の強い太夫殿だな 」
山崎と近藤さんの会話が響く座敷。
「 なんて言ったかな。確か彼女の名前は... 」
「 雪路太夫」
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「 いやッ!離して! 」
燃え盛る炎。
悲鳴と炎が村中を包み込み、
ボヤける視界には転がる木刀と、
暴漢に攫われるAの姿。
「 ッやだ!誰か助けて! 」
「 十四郎くん!」
伸ばしても伸ばしても、届かない手。
「 はな...せよ.... 」
「 そいつから...離れろよ..! 」
今すぐその男達をぶっ殺してやりたいのに、
止まらないその涙を拭いてあげたいのに、
滴る血と遠ざかる意識。
命をかけても守るなんて、あんな大口叩いた癖に。
結局俺は、連れられるその姿を地面に這いつくばって見ていなきゃいけないのかよ...
暗闇の中、耳鳴りのように響くのはAの泣き叫ぶ声。
待ってくれ、頼む
俺はどうなってもいい。
だからAは、
Aだけは____
「 行かないでくれ.. 」
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作者名:□白澤□ | 作成日時:2020年10月22日 11時